スマホも携帯もなかった時代「俺たちにはテレカが命だった」 やがて“イラン人”偽造テレカ 対 NTTの闘いが勃発|中川淳一郎

偽造テレカを売るイラン人

大学生は「上野公園に行けばテレホンカードが激安で買える!」とこぞって上野へ。イラン人はがて東京の西側にもやってくるようになる。ターミナル駅前にはイラン人が大量のテレホンカードを重ねたうえで指で器用にカードをはねて「パチパチ」という音をさせていた。これらの偽造カードは使用済みのカードのパンチ穴が何か所か空いた部分に銀色のテープを貼っただけのものだった。

テレホンカードは「105」の場合は、105、100、50、30、10、5、1、0と数字が書かれてあり、その数字を超えたところで適宜穴が開くようになっていた。これにより、あとどれくらい使えるかを、電話に通して残り度数を表示させることなく分かったのだ。

この穴を塞ぐべく銀色のテープを貼ると電話機の側は、「まだ新品だ」「まだ58度も残っているな」などと判断するのである。元締めのヤクザがいるのか、イラン人が自ら開発したのかはよく分からないが、「大した技術だ」などと周囲の友人らは言っていた。単に銀色テープを貼れば誰でも作れたのかもしれない。ただし、使用済みのカードを集めるにはなんらかの組織力は必要なので一学生ができることではなかっただろう。

イラン人はパチパチとさせながら「テレホンカードォォォォ~~」と妙な抑揚で声をあげており、目の合った人々に売りつけようとしていた。「ドォ」のところで突然音程が上がるのが特徴だった。日本人が買う意思を示すと人気の少ないところや壁に向かって2人して立ち、そこで105度の偽造カード11枚が1000円での売買が成立するのである。つまり、11100円分の通話が1000円でできるということだ。