「サングラスのおじちゃん…」 横山ゆかりちゃん失踪事件を未解決にしてはいけない!(1)

そして……その後、そのままゆかりちゃんは姿を消してしまった。

午後2時頃、ゆかりちゃんの姿が店内に見えなくなっていることに両親は気付き、慌て出した。ゆかりちゃんが座っていたはずの休憩コーナーの長椅子には、まだ食べかけのおにぎりやジュースが残っていたという。

午後2時10分頃、外の駐車場や国道などを探していた父親は、そのまま近くの高林交差点にある交番に駆け込んだ。しかし、交番には誰もいなかった。最近、問題になっている「幽霊交番」だった。

003.jpgパチンコ店からこの交番に駆け込んだが誰もいなかった

そこで慌てて電話で太田警察署に通報したのだ。
そうなのだ。犯人である「あなた」は午後1時40分から午後二時までの間に行動を起こしたのである。ゆかりちゃんをどこかに連れ去ったのだ……。

「おじちゃん」に連れ去られたのか

通報を受けた直後、群馬県警察本部と太田警察署では152人の警察官を動員して、ゆかりちゃんの行方を捜し始めた。事件、事故両面をにらんでの捜査となった。

事件当日にパチンコ店に来た客のうち274人については、捜査員がかなり詳細な聞き取りを行った。しかし、皆、パチンコに夢中で、有力な手がかりがはあがってこなかった。
パチンコ店の店員についても同様だった。同時に現場のパチンコ店から西方250メートル余りを流れる八瀬川沿岸や八瀬川が下流に下って合流する石田川や利根川の河川敷などを、警察犬も動員して捜索した。しかし、何も発見できなかった。

パチンコ店の裏手には木材工場があるだけで、あとは住宅街だった。しかし、休日で木材工場には人影はなかった。また、周囲の住宅街は日中にはやはり人通りがなく、ゆかりちゃんを目撃した人は見つからなかった。

004.jpgパチンコ店裏の木材工場

わずかに南側の駐車場に面した路上で、小さい女の子を白っぽい乗用車に乗せたという目撃証言を得ることができたが、その運転手などを特定できるほどの情報ではなかった。

ゆかりちゃんが行方不明になって三日後、事件は公開捜査となった。しかし、有力な情報はなかなか集まらなかった。ゆかりちゃんの母親は、

「この時に迅速な公開捜査をしてくれていたら……」

と、悔やんでいる。しかし、警察としても営利誘拐の疑いがゼロとは言えない以上、拙速な公開捜査はまずいと考えていた。ゆかりちゃんの両親も、パチンコで遊んでいる間に娘が行方不明になったということに負い目を感じ、警察の捜査に強く注文をつけることに遠慮してしまった(その後、警察ではこのようなケースでは公開捜査を積極的に行う方針も採用するようになった)。

捜査は八方ふさがりを迎えたかに見えた。しかし、問題のパチンコ店の防犯カメラに有力な情報が残されていたのだ。

そう、ゆりちゃんを連れ去ったと思われる犯人の「あなた」らしき姿が記録されていたのである。

「その人物を、事件当初はゆかりちゃんの行方を知る手がかりを持つ参考人として、捜していました。しかし、1ヶ月経っても名乗り出る人はおらず、これは犯行にかなり関わっている可能性は高い人物ではないかと認識し始めたのです」(太田署の捜査本部)

店内監視カメラの不審者は小柄な男性

男はいったいどんな人物で、どのような行動をとっていたのだろうか。防犯カメラなどから男のとった動きを振り返ってみよう。

男がパチンコ店に入ってきたのは、午後1時27分のことだった。
身長が約158センチと小柄。白っぽいシャツの上に、黒の長袖のジャンパーらしきものを羽織っていた。ジャンパーには肩から脇腹にかけて「ハ」の字形のラインが入っていた。ラインの幅は、およそ2~3ミリ程度と見られ、このようなジャンパーは事件当時から15年ほど前に複数のメーカーが製造し、全国で販売したという。下半身は職人や肉体労働をする人がよく着用するニッカ―ポッカ風のズボンを履いていた。足元はサンダル履きだった。

「そして頭には野球帽のようなツバのついた帽子をまぶかにかぶり、さらにサングラスをかけていました。その風体は、まるで最初から顔を隠しているかのようでした」(捜査本部)

男はガニ股歩きでよたよたしながら店内を歩いた。
男はまず、店内の奥の人目につかない位置に消えた。おそらくトイレに入ったのだろう。そして約3分後、姿を現した男はやはりガニ股歩きで店内を徘徊し始めた。パチンコをやる様子は全くなかった。パチンコ台の前に立ち止まってその釘の具合を見るでもなかった。男はただ店内を何か探しものでもするかのように首を時々振りながら歩き回るだけだった。

そんな時、男とゆかりちゃんは景品コーナーの前ですれ違った。時間は午後1時30分ちょうど。その瞬間から、男はゆかりちゃんの後を付け回し始めた。この時、男は何とゆかりちゃんの後を追いかけながら、ゆかりちゃんの母親の真後ろを通り過ぎているのである。大胆な行動だった。