新型コロナワクチン開発は「まだか」と焦ってはダメ 薬害エイズ問題の二の轍を踏むな|中川淳一郎
漫画家の小林よしのり氏は1995~96年にかけ『ゴーマニズム宣言』でこの問題について取り上げていた。そして現在『コロナ論』を出版し、ワクチンについても言及している。薬害エイズの件では当初仲の良かった被害学生・川田龍平氏とともに被害者支援活動を行う画、その後距離を置き始める様を描き、決別を宣言する。学生による活動の熱狂はあったものの、左翼団体がすり寄ってきたことなどもあり、こうした問題は官僚に任せるべきであり、学生は「日常に戻れ」と喝を入れるのである。
薬害エイズの時は「ミドリ十字」という製薬会社が徹底的に糾弾され、時の厚生大臣・菅直人氏が国の責任を認め、遺族らに謝罪。自分が承認したわけではないにもかかわらず遺族・被害者に寄り添うように頭を下げる姿で彼は男を上げた。また、「カイワレ大根からO-157が検出された」と厚生省が発表したため、カイワレ業者の倒産や自殺も発生。この時、菅氏はカイワレ大根を食べるパフォーマンスをした。
この2つの件で一躍時の人となり、「デキる政治家」というイメージがその穏やかかつイケメンルックスとともについたのだろう。だからこそ、後に鳩山由紀夫内閣では副総理の要職に就き、翌年は総理大臣になるのだ。だが、東日本大震災での「現場をかき回した」「言っていることが二転三転した」のイメージで、その地位は落ちた。
現在の40代以上であれば、ワクチンの問題については薬害事件における川田氏や菅氏の姿が関連づけられ、印象に残っているかもしれない。だからこそ「薬害」というものは命をも左右するし、ワクチンは安易に承認するのはやめた方がいいと考える。厚労省にしても、薬害エイズ問題のトラウマがあるからこそ、安易な承認はしないだろう。
1980年代は「かかったら絶対死ぬ病気」と恐怖の対象となったHIVだが、幸いなことに現在は治療法が確立され、「絶対死ぬ病気」ではなくなった。著名人では元バスケットボール選手のマジック・ジョンソンが1991年の陽性報告を経て今でも生きている。前出の川田氏は現在、国会議員を務めている。数年前、議員会館で姿を見かけた時はHIV治療薬の副作用による関節痛のため杖はついていたものの、がっちりとした体格で顔色は良かった。
関連記事:コロナは我々をタフにさせてくれるのか 米食からパン食に変わった平成の米騒動から学ぶコロナ後の生活|中川淳一郎 | TABLO