「簡単なバイトしない?」に要注意! 知らずに巨悪事件に加担して気付けば法廷 被告が証言台で語った後悔|裁判傍聴

どこにでもいそうな普通の女の子。

それが法廷に現れた彼女を見たときの私の感じた第一印象でした。

彼女の起訴された罪名は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪の収益等に関する法律違反」という、なんとも大仰なものです。

しかし犯行に至った経緯も、犯行自体も単純なものです。

きっかけは日本語学校のクラスメートから、「簡単なバイトしない?」と誘われたことでした。

仕事内容は、その知人から預かったカードにポイントをチャージして加熱式タバコを買ってくる、これだけです。

当時、彼女はアルバイト先がなかなか見つからず苦しい生活を送っていました。食べる物にすら困ることもあったようです。中国にいる両親に仕送りを頼みましたがこれは断られてしまいました。彼女は来日する際に、「日本ではきちんと自立して生活する」と両親と約束してきていたのです。

それでも自分の置かれている状況を説明してお願いすれば両親もわかってくれたかもしれません。でも彼女はそうはしませんでした。

「約束したんだから自分で何とかしよう」

そう思ってしまったのです。

そんな彼女はクラスメートの誘いに乗ってしまいました。

仕事は驚くほど簡単でした。ただタバコを買って、翌日に「池袋駅近くに車でやって来る男」にそれを渡すだけです。

彼女はその行為が犯罪であることも、自分のやっていることが組織的犯罪の中で「買い子」と呼ばれる役柄であることも初めはわかっていませんでした。

ただ、彼女もこの「仕事」には何かイヤなものは感じました。アルバイトが見つかったこともあって数回関与しただけで買い子は辞めてしまいました。

買い子はこの類の犯行に欠かせない重要な役割で、なおかつ最も捕まる危険性は高いです。彼女はこの仕事を1回4000円程度の報酬でやっていました。このお金はすべて家賃など生活費に充てたそうです。

この不正アクセス事件を起こした組織の中心にいるような人物が捕まったというような報道は2020年9月の段階ではまだありません。

「自分のしたことがこんなに重大なことだと思わなかったし、捕まるなんてまったく思ってなかったです。留学を続けたかったです」

証言台で泣きながらこのように話していた彼女は、罪を犯した犯罪者というよりは何かの被害者にも見えました。

裁判が終われば彼女は退去強制です。そしてもう日本に来ることは難しくなります。

最終陳述では彼女はたった一言、小さな声で呟きました。

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