10年目の福島第一原発事故 「僕らはこの震災前までは安全だと思っていた」(福島第一原発作業員) 最終回(インタビュアー│奥山俊宏、久田将義)

事故直後の福島第一原発内。

「原発に対しての気持ちですが、今まで住んでたものをなくされた原発に対して、そこで働いてるっていうこと自体が、おかしい」(福島第一原発作業員)

 

■14日夜、「もういいです」

 

3月14日午後、今度は2号機の原子炉が冷却不能に陥り始めた。2号機は津波来襲直後に全電源を喪失したにもかかわらず、その直前に起動したRCIC(原子炉隔離時冷却系)の炉蒸気駆動ポンプが制御なしで動き続け、14日まで原子炉への高圧注水を継続していた。しかし、とうとうそれが止まったらしく、14日昼に炉内の水位が下がり始めた。
夕方、消防車による注水を試みようとしたが、思うように原子炉内を減圧できず、消防車のポンプでは炉圧に負けて水を押し込めない。そうこうしているうちに炉内は水位が下がって核燃料がむきだしとなり、いわば空焚き状態に陥った。午後8時9分、東電本店では「炉の中の水がほとんどなくなった」と記者たちに公表された。
2012年2月29日のインタビューの際、彼は次のように振り返った。

 

奥山:初っぱなにお聞きしましたけど、その日の夜ぐらいに、8人いらしたうちの5人は。

マサ:そうです、「もういい、とりあえず」と。

奥山:2Fに行ってくれ、ということですか?

マサ:各々の自己判断ですね。

奥山:それはたとえば、「こうなったら戻ってね」とか、そういうのは?

マサ:ないです。

奥山:とにかく帰って、と。

マサ:連絡できる人を残して、「あとはいいです」と。

奥山:それは何時ぐらいですか?

マサ:たぶん夜もう11時か12時だったと思いますねぇ。

奥山:深夜ですね。

マサ:深夜です。

奥山:それは東電のほうから、もう人数を絞ってっていう。

マサ:そうです。

奥山:その理由については特に聞かなかった?

マサ:理由については聞いてないです。

奥山:理由は2号機のあれなんだと思うんですけど、その当時は聞いてない?

マサ:聞いてないです。本当ならば、各請負業者も、うちも所長がいたんで、そういう人が緊対室、中心のところに行って情報を集めてくればいいんですけど、そうできる状況でもなかったような感じで、なかなかあそこには入りづらいっみたいな感覚だったみたいですね。
ホントであれば、自分のところの所長どうこういう話なんですけど、そういう長が自分の部下を守るために、今の状況はどうなのかとか、東電が何を言おうが、自分の部下を守るために何かしなきゃいけないっていう行動をとるべきじゃないかと、俺は今でも思うんですけど。そのときの所長は別に何もしてなかった。ぜんぜん所長は14日の晩に帰りましたからね、ぼくらを残して。

奥山:そうですか。

マサ:「所長が残るって言うんじゃないの?ふつうは。一番頭でしょ?」と思ったけど帰りましたからね。

奥山:残った人の中では一番上だったんですか?

マサ:いや、ぼくが一番下です。主任だけど、その3人の中では一番下です。

奥山:じゃあ所長を除くと上から3人が残ったっていうことですか?

マサ:そうですね。

久田:平社員の人は帰った。

マサ:帰りましたね。管理職ふたりとぼくです。

久田:やっぱりビックリしたんでしょうかね、所長は。前代未聞の災害で。

マサ:いやぁ、どうですかねぇ。

久田:こういうことが起きるとは思ってなかったから。

マサ:それはなんとも。本人に聞くしか分かんないですけどね。そこらへんはね。

 

■15日朝、4号機爆発、2号機放射能放出

 

4号機は前年11月末から定期点検に入っており、原子炉内の使用済み燃料はすべて取り出され、原子炉建屋の最上階にあるプールの水中で保管されていた。原子炉運転中や運転停止直後に比べれば少ないものの、それら使用済み燃料は様々な核分裂生成物の原子核崩壊によって熱を発し続けていた。その4号機でも3月11日に津波の被害で全電源を失い、プール内の使用済み燃料の崩壊熱を取り除き、プールを常温に保つことができなくなっていた。

水温が上昇するにつれ、水は気化していき、プールの水位は下がりつつあった。そうしたなかで3月15日朝、4号機の原子炉建屋が人知れず破壊されてしまっているのが見つかった。プール内の使用済み燃料が空気中に露出し、水蒸気と化学反応を起こして水素ガスを発生させ、それが爆発したと疑われ、米政府の原子力規制委員会は16日(日本時間では17日)、4号機のプールに水はない、と発表した。

 

奥山:4号のプールに水があるとかないとかということでずいぶん一時期騒がれてましたけど、そういう話っていうのは当時は全然?

マサ:4号って、実際15日までの中で話題になんにも上ってないです。あそこは定検中で、炉には燃料がない、定検中だから抜いてる状態なので。っていうところまでしかないので、じゃあ貯蔵プールのほうの状況はどうなってるかは、何もわからないですね。

奥山:15日の朝に、寝てるときに音を聞かれたわけですよね。

マサ:はい。