出所していたリーダー格の男…未解決「板橋資産家殺人放火事件」の真犯人を追う|李策
捜査本部は早い段階から、事件に中国人と日本人からなる強盗団が関わった可能性があるとの情報を得ていた。まず、大阪府警に別の事件で逮捕された中国人犯罪者が、「犯行に誘われた」と供述。続けて愛知県警からも同様の情報が寄せられた。
そしてより決定的だったのは、強盗団メンバーのひとりだった暴力団組員、原田陽治(仮名)が提出した「上申書」だった。2009年9月、別件で静岡県警に逮捕された原田は、自分の罪を軽くしようと捜査当局に取引を持ち掛け、板橋資産家殺人放火事件の情報を明かしたのである。
もっとも、原田は捜査当局に事実をありのままに伝えたわけではなかった。板橋の事件については自らが潔白であるかのように語った原田だが、実際には犯行現場にいた可能性が高いのだ。
筆者はそうした内幕を、かつて原田と犯罪仲間だった情報屋・大迫恭介(同)から聞いた。大迫は板橋の事件発生後、原田との電話で次のような会話を交わしている。
大迫「例の板橋の件、あれ、どうなの?」
原田「板橋、凄かったよ」
大迫「いくらあったの?」
原田「とりあえず、10億」
大迫「えっ? 10億ももらったの?」
原田「いやいや、全部でそれくらい」
大迫「いくらもらったのよ?」
原田「(日本人と中国人の取り分が)2対8だよ」
大迫「でも、なんで火をつける必要があるの? 放っといた方が発見も遅れたんじゃない?」
原田「それは中国人が勝手にやっちゃったことだから。最初は殺すつもりはなかったし、燃やすつもりもなかった」
この原田の上申書に基づき、捜査当局は大迫も逮捕している。原田が自分は板橋の事件と無関係を装う一方、トラブルの相手になっていた大迫を事件の黒幕に仕立て上げようとしたからだが、それが事実でないことは警察の調べで明らかになっている。
そのような嘘が含まれてはいても、原田の上申書は十分に真に迫るものであり、捜査本部は色めき立った。