RIZIN榊原信行代表とは何者か 「ファンは私に卵を投げて欲しい」「将来、朝倉未来とはプロデューサーとして対峙する」
――見ているこちら側も夢があります。
榊原代表 そういうことを誰かが声高に叫ばないと。UFCは世界で唯一無二の総合格闘技の団体になればいいと思っている。だから「UFCの王者がすべて」という考えだと思います。UFCのダナ(・ホワイト。UFC代表)なんかと過去を振り返ってお互いに話すと、彼らはUFCとPRIDEしか認めていないんですよ。
―ーえ。そうなんですか?
榊原代表 このふたつのコンテンツしか過去も現在も成立してない。だから「PRIDE無きあとはUFCがすべてだ」と。他からの選手たちはサテライトみたいなもんなんだと。
――けっこう閉鎖的なんですね。
榊原代表 閉鎖的だしエゴイストな人たちなので「世界的に業界全体でみんなが手を携えて」なんて気はないんですよ(苦笑)。そのコンテンツに熱があって、そこの売上で大会の収支が合わなければ基本、続かないわけじゃないですか。UFCなんかは年商がいま1000億円ぐらいあるのかな。毎年何百億円かの利益が残るようなスキームを自力で作れているわけですよ。
ーーRIZINはどうですか?
榊原代表 RIZINは各大会での利益があって、経費を払ってもちゃんと経営として回っています。新しいファンの人たちを作り出せているし、年商も昨年で、『THE MATCH』を除いても80億円ぐらいまでいったんですね。PRIDE全盛期が100億円ちょっとだったんですよ。
―ー数字で見ればPRIDE時代に近づいているんですね。
榊原代表 そこに肉薄するぐらいには経済効果は上がってきています。
●BreakingDownをどう捉えているのか
――ネットとか見てると、自分の肌感なんですけど、いわゆる格オタというか本格的に格闘技が好きな人と、BreakingDownみたいなところから入った人もいて、ファン同士でぶつかり合ったりの論争がけっこう面白いんですよ。
榊原代表 うん、面白いね(笑)。
――そういうファンの方たちの声はどう見ていらっしゃいます?
榊原代表 僕からするとBreakingDownはRIZINがあるから成立しているんですよ。結局「RIZINごっこ」「格闘技ごっこ」じゃないですか。みんなRIZINに出場するファイターの様になりたい。でも、RIZINのファイターになるには朝倉未来みたいに精進してトップアスリートにならないと上がれない。でも1分だったら真似ごとができる。そういう人たちがチャレンジして、トラッシュトークを真似たりしているじゃないですか。BreakingDownの選手が一足飛びにRIZINに出てきて、いきなりRIZINの選手と戦っても「大人と子供」になってしまうでしょうし。でも誤解しないで欲しいんですが、私はBreakingDownというものに対しては全然否定的ではないですよ。
――選手のなかでも反発する選手とスルーする選手がいて、あるRIZIN常連選手がYouTubeで「(BreakingDownは)帰れよって言いたいです」って言っていました。
榊原代表 それはある種のジェラシーですよ。僕はそう思います。自分たちはこんなにしんどい思いをして、こんなに激しく人生を捧げている反対側で、真似ごとって言うとBreakingDownに出てる人たちに怒られちゃうかもしれないけど、格闘家としての評価とは、また違う意味のものを持ち込んで話題になっている。
――僕の知り合いに元某団体のチャンピオンがいて、彼は何も言及しないので聞いたら「やっかみって言われるから触れない」って言っていました。ジレンマはあるでしょうね。
榊原代表 ありますよね。人気をこの数年で作り出してきていることのひとつの表現であり、裾野が広がったことで生まれたのがBreakingDownなんで。でもそれも私から言わせれば、RIZINみたいなもんですよ(笑)。
――そうですか(笑)。
榊原代表 そう。だからBreakingDownに参加しても、その先に本物でしか生まれない感動とか興奮とかスペクタクルな世界というのはBreakingDownのなかでは生まれない。本物を観たくなる最初の入口がBreakingDownでもいいと思う。そういう意味で僕らはそこに媚びることなく、その存在を認めたうえで本物として輝き続けるための努力をするっていうことだと思います。
総合格闘家平本蓮選手の矜持 「朝倉未来選手」「ブレイキングダウン」について | TABLO https://tablo.jp/archives/45665
――大人の見方ですね。
榊原代表 ただPPVを購入する世代はわりと冷たい目で見ている。海外だと例えばローガン・ポールとかジェイク・ポールっていうYouTuberの試合っていうのは若年層は観るけど、PPVの購買に優良な年代層、30代とか40代の人たちは観ていないって言っていましたね。
――僕はWOWOWでローガン・ポールの試合を課金しているので観ましたけど、もう観たくないと思いましたね。例えば桜庭vsホイス戦みたいな「本物の闘い」を観ちゃうと「全然感情移入できないんだけど」ってなっちゃう人はいると思うんですよ。
榊原代表 僕らは守備範囲をなるべく広くしたいんですよ。ただやっぱり見せたいものは「本物」なのでそこはブレずにいく。でもトップアスリート同士の試合が、常に面白いかというと、まあまあそうじゃないケースもある(笑)。素人の1分のケンカのほうが面白かったりする。ここのジレンマがあるんですよね。
――それを考えると難しいですね。
●「アントニオ猪木さんから学んだこと」とは
榊原代表 だから完全に競技化したRIZINだと、衰退すると思っているんです。どこかでヤマっ気があるべき。……実は最近みんなにすごく誉められるんですよ(笑)。でもみんなから「ありがとう」って言われ続けるのは良くないと思うんです。
――良い事じゃないですか(笑)。
榊原代表 どこかで「榊原ふざけんな!」みたいな熱もないと(笑)。
――ああ、なるほど。芸能界の取材で聞いたのですがプロデューサーが責められるとタレントが伸びていくパターンがあるそうです。「こんなにひどい目に遭ってるタレントを応援しよう!」みたいな感じで。
榊原代表 近いと思います。僕が選手に無茶振りをして「榊原ふざけてんのか!」って。今年はいつになく早くカード発表ができているので、そこも褒められましたし(笑)。
――良いと思いますけど(笑)。
榊原代表 最初の頃は斎藤裕(RIZINフェザー級初代王者)に厳しいことを言って斎藤ファンを怒らせたりしましたけど、でもそれが斎藤という選手の存在感を際立たせて、ファンの熱に繋がった。もちろん反対側に朝倉未来という男がいたからなんですけど、「榊原は朝倉未来のことばっかり考えている。だから俺たちは斎藤を応援するぞ」みたいなことだと思います。
――ますます芸能界やアイドルの仕組みと似ている気がしました。
榊原代表 似ていると思いますよ。僕が常に言うのは「ファンに媚びちゃダメだ」なんです。ファンの意見に耳を傾けることは必要ですが、媚びてはダメ。自分たちがここまで積み上げてきた経験とか実績とかこんな世界観でものを作っていきたいっていうことを貫いていかないと。そこにファンのなかでいろんなハレーションが起きるのは仕方ないと開き直るしかないですし。
――本当に嫌だったら試合自体、見ませんもんね。
榊原代表 そう。だからアンチをもっとたくさん作って「榊原ふざけんな!」って会場で卵ぶつけられたら最高だよね(笑)。
――それは逆に「熱狂」という現象になり、ブームになりますよ。政治の取材で思っていた事なんですが、例えば政権交代って「熱狂」から生まれていますよ。
榊原代表 だから岸田総理はダメなんです。僕はドナルド・トランプになりたいんです(笑)。
――ト、トランプ?!(笑)
榊原代表 日本の政治がダメなのは、菅(前総理)さんもそうだけど岸田さんもそれがないじゃないですか。トランプぐらい無茶したいですね。
――そう考えると、芸能とも政治とも似てますね。
榊原代表 そういうことですね。だけど(アントニオ)猪木さんもそういう人だったじゃないですか。
――猪木さんて皆の憧れでしたけど、側近は結構な目に遭ってますよね。
榊原代表 若い選手たちはアントニオ猪木に裏切られ、ひどい目に遭わされて、何クソと思って。髙田(延彦)さんもそうでしょうしあまりにもエネルギーが巨大なので、近づき過ぎると火傷してしまう。でもその放熱って、プロレスというジャンルに閉じこもっているんじゃなくて、世間に届かせようとしていたからこそ生まれたんだと思うんです。世間とどう対峙するかというのを常に考えている人でしたから。「榊原君。選挙運動とプロモーション活動は一緒なんだよ。つまり騒ぎを起こすんだ」と。
――やっぱり興行と政権交代は似ていますね。だからこそ、榊原さんは世間の悪口とかは「むしろ来て欲しい」というぐらいな心構えな訳ですね。
榊原代表 嫌われ者になる覚悟は決めてますから。悪の法則をエンターテインメントの世界、特にリングのコンテンツに取り入れられれば良い。映画もそうだし格闘技もそうだけどヒールが強いと業界は盛り上がるんですよ。アンドレ・ザ・ジャイアント、タイガー・ジェット・シン、ブッチャー、ブロディを思い出してください。悪が強くないとベビー(フェイス)が光らない。映画もそうだけど「悪役は常に笑っている」んですよ。
――たしかに映画『ジョーカー』も……。
榊原代表 そう! 『ジョーカー』も常に笑っている。アクションというものは悪役が起こすものなんです。ベビーは常に難しい顔をしたリアクションしか取れない。「また榊原が無茶言い出したよ」みたいな感じのことを仕掛けないと。良い人になって、みんなに「良いよ」って気を遣われるんじゃなくて「榊原ふざけんな!」っていう熱をどう作るかだよね。
――榊原さんの理想的プロモーターとしてはアントニオ猪木さんなんですね。
榊原代表 猪木さんにインスパイアされたことってめっちゃ多いんですよ。
――榊原さんの仕掛けって、全部興行でありエンターテインメントに徹しているというか。
榊原代表 そうですね。僕らがやっているのはエンターテインメントのプロの世界なので。もちろんリングの中は真剣勝負ですよ。試合の勝敗に僕らが何か関与することはないです。でも試合のゴングが鳴って試合が終わるまで以外のところのドラマ作りとか、選手に無茶を言うとか。ファンが見えてないようなことを仕掛けて、一歩か半歩先のことをする意識を持つということなんじゃないかなと思っています。
●4.29メイン2試合に待っているドラマとは―ー
――次の『RIZIN LANDMARK 5 in YOYOGI』のダブルメインはそういうストーリーが出来ていますよね。
榊原代表 そうですね。
――めちゃくちゃワクワクしますね。