総合格闘家平本蓮選手の矜持 「次の相手」「朝倉未来選手」「ブレイキングダウン」について

「格闘技をナメている奴は許さないですね」

「まるでミュージシャンですね、平本選手」。と、カメラマンでノンフィクションライターのインベカヲリさんが写真にコメントしていた。佇まいもさることながら、当初からつまりMMAデビュー前から、このインタビューで「平本選手が出てくれば日本の格闘技界の風景は一変する」と僕は書いているし思っている。以下のように。

「平本選手がフェザー戦線に出てくるとかなり風景が変わると思うんですよ。ご自分でもそう思いません?」(2021年2月21日TABLOより https://tablo.jp/archives/44282/5)

世紀の一戦「THE MATCH」。RISE代表として出場した白鳥大珠選手を一発でKOした、ムエタイ戦士ゴンナパー・ウィラサクレックはその怪物ぶりをまざまざと見せつけた。

そのゴンナパー選手を10代でKO勝利しているのが平本蓮選手。

「キックとMMAは違う」。確かにその通りだ。が、格闘技である事には変わりがない。ゴンナパーとさらにゲーオ・ウィラサクレックをKOした選手が弱い訳がないだろう。個人的にそう思っていた。

「格闘技に変わりはない。それがたまたま入り口がK-1だっただけ。これから(平本選手)もっと強くなる」(大意)。という格闘家もいた。

キック出身の選手に浴びせられるMMAファンからの冷たい視線がある。

が、振り返ってみてよう。ミルコ・クロコップ(PRIDE無差別級グランプリ2006優勝)、アリスター・オーフレイム(元Strikeforce世界ヘビー級王者、UFCヘビー級1位)、イスラエル・アデサニア(元UFC世界ミドル級王者)などキック出身のMMAトップファイターは枚挙にいとまがない。女子でもムエタイ出身のヴァレンティーナ・シェフチェンコ(現UFC世界女子フライ級王者)などなど。

「強い者は強い」

それを体現してきているだけの話なのだ。平本選手が第1回のインタビューで言っていた事もそれだった。

「俺は16歳からこの(プロの)格闘技界にいるし、おまえより名前があるし、おまえよりもキャリア長いし、おまえよりも場数も踏んでるし、ルールは違えどホントに強いヤツとやってきたんで、ナメんじゃねえよっていうのをマジで見せますね」 (2020年12月22日 TABLOより)

その答え合わせが弥益ドミネーター聡志(元DEEPフェザー級王者)戦で出たような気がしている。ドミネーター戦で見せたのは、全盛期のミルコ・クロコップのようなストライカー系MMAのファイトトスタイル。立ってはパンチを的確にドミネーター選手の顔面に当てていく。タックルを切ってまた立たせてパンチ。足関節を狙うもスルスルと抜けていく。パウンドに行けるところもあえてた行かず、徹底した立ち技で圧勝。不利予想を覆しての完勝だった。

「俺は立って殴るだけ。宣言しますよ。立って殴って倒して殴る」(2020年12月22日 TABLOより https://tablo.jp/archives/44282)

2年前インタビューである。まるで預言のようではないか。

言葉通り「才能覚醒」と言った表現で、平本選手の連勝を評価している人や報道がなされた。いわば手の平返しだ。元々強いのは織り込み済みだったはず。それが開花するのが2年経った現在2022年だっただけの話だったのではないか。その格闘家平本蓮選手は現在、何を思うのか―ー。

 

 

●「次は斎藤裕選手とやりたいですね。本当の格闘技ファンに届けたい試合です」

――格闘技界にモヤモヤしたものを感じてまして、その辺の事も平本選手に伺いたいと思います。それは後ほど聞くとして、2年くらい前にインタビューしたときに、「格闘技はやってることは同じだ」と仰っていて、先日の弥益ドミネーター聡志選手との試合でその答え合わせができたと思うんですよ。今、格闘技への取り組み方ってどうなんですか?

平本蓮選手(以下・平本選手) 練習が楽しいんですよ。前よりずっと格闘技のことを考えているし、格闘技に愛情がありますね。だから岩﨑先生(岩﨑達也。剛毅會空手宗師)と気が合います。考えが止まっている人って、固まるんですけど、岩﨑先生の場合はたまに教える内容が変わったりするんですよ。だから「こうじゃなくていいんですか?」って聞くと、「いやこれでいいんだよ」って返ってくるんですけど、つまり岩﨑先生自身も成長しているんですよね。

「完成度でいえばまだ全然納得いかないレベルです」

だから教えてもらっているのはもちろん、同じ打撃出身の武道家として岩﨑先生も極めようとしているんじゃないかなって感じるからこそ、面白いんですよ。本気で世界最強を空手で証明しようとしているという。今、骨折が治ってないからスパーリングとかできていないので型を中心にして、岩﨑先生は型に重点をおいてやるんですけど、僕はその型の意味を実感してきています。

――打撃でMMAを制す、ですか。ミルコ・クロコップ選手なんかはひたすらタックルを切って切って切って、トップまで行ったわけじゃないですか。

平本選手 そうですね。ミルコ・クロコップがケビン・ランデルマンかなんかに負けたとき、組みの練習をすごい増やして組み技のレスラーを意識しすぎたみたいな話を聞いたんですよ。そういうのもあって、その前に「拒否する」というか、乗らないことですよね。組み技の練習はたくさんやっているんで苦しい組み技の練習を逆に増やしてるから、すべてにおいてどの状態からでも打撃を効かせられる、そういう隙のないスタイルを研究している感じですね。

――この前のドミネーター戦は足に怪我をしていたから、すぐ立ち上がっていったっていう事ですね。

平本選手 そうですね。あれもパウンドを仕掛けていけばKOできるかなと思いましたが、勝ちを狙うよりクレバーさを試合のなかで出せたのが自分のなかで大きいんじゃないかって。

――打ち合ったら絶対負けるし、タックル行っても切られるし。あの試合巧者のドミネーター選手が完敗でした。

平本選手 打撃ができない選手って、なるべく食いつきたいと思うんですけど、やり過ごしたい時間はやり過ごしちゃえば相手が来るタイミングなんてわかるんですよ。みんな必要以上に打撃を嫌がってくれるからこそ、組み技でしか来ない。仮に打撃で来たとしても中途半端な打撃が僕に当たるはずがないんで。

――MMA選手である平本選手の入口がK-1だっただけで、柔道が入口の選手もいるし、それだけの話で、それを過小評価してるのはおかしいっていう。石渡さんも長谷川選手も、平本選手は練習ではUFCレベルって言っていました。が、「いやいや違うよ」みたいな冷笑ツイートやYouTubeでの選手たちの発言があったじゃないですか。それがみんな手のひら返していったじゃないですか。そういうのをご覧になっていかがでした?

平本選手 まあ、まだ驚くのは早いです(笑)。

――これからがスタートということですね。

総合格闘家・平本蓮選手ロングインタビュー 「人に優しく生きようと思っている」 新生K—1の申し子から「格闘技の申し子」へ | TABLO