「お酒のせい」って言うじゃない?
深夜、都内の焼き肉店から
「閉店後も居すわって暴れている客がいる」
と110番通報が入り警察官が現場に駆けつけると植松直也(仮名、裁判当時37歳)は通報通り店で大声を出して暴れていました。
彼は、
「お前ら絶対にゆるさないからな!」
などと叫びながら男性店員の胸ぐらを掴んだり、タバコを投げつけたりしていましたが、警察官に止められ一旦は大人しくなりました。
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その後、彼は店員に土下座をして謝り警察官とともに店を出ましたが、彼は今度は警察官に対して食ってかかりました。
「ふざけんなよお前! こっちは土下座させられたんだ!」
絡み続ける彼に対して辟易した警察官は交番で話を聞くことにして彼を交番まで連れていきましたが、そこでも彼は文句を言い続けていました。
彼は数十分もの間、警察官に因縁をつけていたようです。そして事件は起きました。
「おい三下! 逮捕できるもんならやってみろこの野郎!」
と叫んで、若い男性警察官の胸を両手で突き飛ばしました。「できるもんならやってみろ」という要望通り、彼は公務執行妨害の現行犯で逮捕されました。
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「自分のことをわかってもらえないくやしさと、あと酒で気持ちが大きくなっていたのもありました」
と、事件の原因について供述しています。
情状証人として出廷した内妻は
「14歳の娘もいますし、家ではお酒は飲まないです。普段は優しくて大人しい人です」
と話していました。
店や交番で暴れていた彼と、家での優しく大人しい彼、一体どちらが本当の姿なのでしょうか。
彼は前歴5件と前科4犯を有しています。前科の詳細な内容はわからないながらも罪名を挙げると、傷害、強盗至傷、公務執行妨害、過失運転至死です。過失運転致死は飲酒運転が原因で起こしたものです。
3つの粗暴前科からわかるように、彼は以前は本人の言葉で言えば「キレやすくて乱暴なところがあった」そうです。
そんな彼も、家族が出来てからは変わりました。
「以前は希望も楽しみも何もありませんでした。でも今は家族がいて、やりたいこともあります」
人に暴力をふるわないように意識して生活し、カッとなった時にも自分を抑えられるようになっていきました。人に対して悪く思うようなことも減ってきました。
しかし、その努力も酒の前には無力でした。
「もうお酒は飲みません。やめます」
過去の裁判でもおそらく同じようなことは言っていたと思います。少しくらいは大丈夫、そう思ってしまったのかもしれません。逮捕や服役の経験、家族の存在、そして事故とはいえ一人の人の命を奪った過去でさえも、彼が酒をのんで犯罪を犯すことの歯止めにはなりませんでした。
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「昔は乱暴だったけど最近は抑えることが出来ていた、って言うけどさ...」
裁判官は彼にゆっくりと語りかけていました。
「それは表に出なくなっただけで、乱暴なのは治ってないんですよ。当時のあなたがいなくなったわけではないと思います。酒飲むと昔のあなたが出てきちゃう。酒で理性が弛んでいるときに出てくるのが本来のあなたです。そう思います。お酒とのつきあい方はもちろんだけど、自分がどういう人間かちゃんと見つめ直した方がいいと思いますよ」
彼にかぎった話ではなく、法廷で
「酒に酔っていてやった」
と話す者はたくさんいます。
たしかに酒に酔っていたのは事実かもしれません。しかしそれは事件を起こした要因の一つでしかありません。どんなに酔っていてもほとんどの人は違法行為で捕まることなどありません。
今回公務執行妨害で裁判を受けていた彼は、抑えていたはずの昔の粗暴な自分が出てきてしまったようです。犯罪まで犯すケースは特殊かもしれませんが、理性が弛んでいるようなときにででくる本来の自分、がどういう人間なのか。その自分をちゃんと認識できている人は実は多くないのかもしれません。
自分の姿は自分では意外と分からないものなのです。(取材・文◎鈴木孔明)
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