阿蘇山の夜道 「夜中に寝ていると『窓の外を見ろ!』と叫ぶ何者かの声」|川奈まり子の奇譚蒐集二七

勇さんが小学六年生の七月のこと。夏休み直前の土曜日の夜、二人の妹たちと共有している二階の子ども部屋で寝ていたところ、突然、何者かが、

「窓の外を見ろ!」

と、叫んだ。

目を覚ますと、まだ夜の一〇時。妹たちは眠っており、今聞いた声は、自分だけが夢の中で聞いたものに違いないと思った。しかし気になる。

そこで起きあがって、窓から外を眺めた。

勇さんが生まれる前に開通した国道が家の真ん前にあるお陰で、道路沿いの街灯が常夜灯代わりになっている。周囲には人家はなく、子ども部屋の窓から見えるのは、その国道と山ばかり。

――なんだあれは?

彼の家にとっては財産でもある杉林に覆われた山の中に、淡い水色の玉があった。柔らかく光っており、たいへんに美しい色合いをしている。

勇さんは、もっとよく見るために窓を開けてみた。ちなみに勇さんの家は祖父と父がすべて手作りした木造家屋で、窓は木枠で上下に開閉する仕組みで鍵はネジ式だ。ネジをキコキコと回して窓を開けると、夜気が頬を撫でた。標高が高いので、この辺りは夏になってもかなり涼しい。

さて、もう一度、目を凝らして水色の玉を観察してみたところ、国道沿いに生えた杉の梢に引っ掛かっているように見受けられた。地面から五メートルほどの高さにあり、直径三〇センチばかりの球体かと思われる。

室内を振り向くと妹たちはぐっすり寝入っていた。隣室に二歳上の姉がいるが、もう眠ってしまったようだ。両親も早寝早起きの習慣だからすでに熟睡しているのか、耳を澄ましても物音ひとつしない……。

――行ってみよう!

勇さんは好奇心を抑えきれず、パジャマ姿のまま、そっと家から抜け出した。

おすすめ記事:親黙り、子黙り「お兄ちゃんは木の間に入っていって見えなくなった」|川奈まり子の奇譚蒐集二五(上)