阿蘇山の夜道 「夜中に寝ていると『窓の外を見ろ!』と叫ぶ何者かの声」|川奈まり子の奇譚蒐集二七

二人とも国道沿いの街灯の光が届くところに立っているから、鮮明に姿が見える。手足を動かさず、手を繋ぎ、うつむいて佇んでいる……が、最初の位置から明らかに前に進んできている。そんな馬鹿な、と、自分の目を疑いながら勇さんはさらに近づいていった。

やはり二人は歩く動作をしていない。しかし接近してくる。

――うひゃあ。

怖くなって、勇さんは車道側に膨らんで二人を避けた。そして擦れ違った瞬間に二人がいた場所が暗くなったように感じ、自転車を止めて振り向いたところ、そこには誰もいなかった。

近くには人家も商店もなく、山があるばかり。夏のこの時期は、山には下生えが繁茂していて容易には足を踏み入れられない。

二の腕に鳥肌がびっしりと立っていた。うなじの辺りがツンと冷たくなって髪が逆立つ。必死でペダルを漕いで家に帰り、布団を被って朝まで震えていた。

それ以降、深夜にひとりで帰るのが恐ろしくてたまらなくなり、幸い怪しいものに遭遇したのはその一回きりだったが、夏休みが終わるとパチンコ屋のアルバイトを辞めてしまった。