見えない代わりに 前編 「視力と引き換えに彼が得てしまった能力とは」|川奈まり子の奇譚蒐集三〇

明くる日の夜は、悩んだ挙句に午前1時にナースコールを鳴らして、やってきた看護師に、頭がおかしいと思われるのを覚悟の上で、こんなふうに訴えた。

「バカみたいやと思われるでしょうが、毎晩深夜2時になると、子どもの幽霊がやってきて、眠るどころではあらへん! 足を引っ張ったり、叩いたり、昨夜はついに背中に乗っかってきましてん! 感触や気配はちっさな子どものようなんやけど、真言を唱えたらパッと消えたから幽霊ですわ! 怖くてたまりまへん!」

澄夫さんの訴えを聞くと、看護師は「ベッドのせいかしら」と呟いた。

「この病院ではベッドは病棟を限らず使いまわしとるんですわ。このベッドは、子どもが使こうとったものなのかもしれまへんね」
「では、その子が亡くなって、ベッドに取り憑いて……?」
「さあ……。よぉわかりまへんが、たまにあるんですわ。こないなことが」

そして特別に、彼を1階のロビーで夜明かしさせてくれた。ロビーでソファに座ってラジオを聴いていたが、午前2時を過ぎても何も起きなかった。その日、検査のために別室に行っている間にベッドが交換されていて、それからは退院するまで子どもの霊に悩まされなかった。

しかし澄夫さんは、あれが初めての心霊体験には違いないが、今にして思えば、当時、深夜に病室の外の廊下やロビーに人の気配を感じたり、足音を聞いたりすることが頻繁にあったのだと私に話した。子どもの幽霊が来なくなってから後も、入院中ずっと、である。

そのときは疑問に思わなかったが、よく考えてみたら、病院というところは、夜は消灯しており、夜遅くに入院患者が病室から出て歩き回ったり、大勢の人々がお見舞いに来たりしないものであった。

手術してから視覚を奪われて昼も夜もなくなっていたから、明かりが消える「消灯」のイメージが湧かなかったのだが、暗くなって人々が活動を停止する時間帯のはず。では、夜のしじまに蠢いていたあの人々の気配は何なのかというと、あれらも幽霊だったのではないかと思うしかないとのことだ。(川奈まり子の奇譚蒐集・連載【三〇】)

後編に続く