見えない代わりに 後編 「会った記憶もない祖父が出てきて笑顔を見せた」|川奈まり子の奇譚蒐集三一
視力と引き換えに手に入れた霊感は、相変わらずだという。
つい最近も、ある独り暮らしの生徒に、遠隔でインターネットを介して通話しながらパソコンの講習をしていたところ、その生徒の後ろから女性の声が聞こえてきた。
生徒は独身男性で、視覚障碍者向けのケアマネージャーが自宅に通ってくる他、近くに住む妹さんもときどきようすを見に来てくれると以前から話していた。だから、「女性の声がするけど、ケアマネさんか妹さんが来てるんですか?」と訊ねたのだが。
「誰もいません。僕ひとりです! 先生、怖いこと言わないで!」
生徒は悲鳴のような返事を寄越した。一方、女の声は、いよいよはっきり聞こえてきた。ケタケタと笑っている。それがまた、なんとも厭らしい、意地の悪そうな笑い声なのだった。
「でも、笑ってますよ……」
「笑ってるんですか? 妹とスカイプしているときにも同じことを言われました。うわぁ、怖い! 怖いですよ! 僕には全然聞こえないけど!」
と、まあ、こんなふうに非常に怯えて、授業が進まないどころか、もう教わるのをやめてしまう恐れまで生じたので、澄夫さんは、尚も笑っている女の声に対して、「コラ!」と一喝して、叱りつけた。
「どっか行きなさい! 二度とこっちに来るんじゃない! 去ね!」
すると「チッ」と鋭い舌打ちが1回聞こえて、それっきり、その生徒との通話中に女の声が割り込んでくることはなくなったのだという。(川奈まり子の奇譚蒐集・連載【三一】)
終わり
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