コロナ禍で苦境に立つ日本格闘技界 「RIZIN」逆襲なるか 榊原CEOに聞く 「格闘技界は無くなってしまうのか」(前編)

大晦日と言えば格闘技だった時代

――それで言うと、17~18年前はPRIDEとK-1が社会現象になるほどのブームでした。大晦日でやるほどの国民的イベントでした。今との違いはどこでしょう。

「スケールが違いますね。今は格闘技がブームと言えるほど社会的に認知はされていないと思うんですよ。PRIDEとかK-1全盛期は、ほかのメジャースポーツと向こうを張っていました。野球よりもサッカーよりも、大晦日は格闘技、と。今、RIZINとか格闘技を観るのと野球とかサッカーを観るのとどっちが面白いかっていうと、圧倒的に野球とかサッカーですよ(苦笑)。

当時は、みんなの興味のあるものベスト3で格闘技が、野球、サッカーを抜いていたことがあるんですよ。でもいまはバスケットのBリーグや卓球のTリーグ、バドミントンも面白いし、みんなの興味があるスポーツの種目が増えている。一方で格闘技は、相変わらず「プロレス・格闘技」って、似て非なるものなのに一緒のカテゴリにされている、というのが実情ですよね。

格闘技もたくさん団体がありますけど、そこまで知っている人は少数派。その当時、吉田秀彦や小川直也もそうだし、秋山成勲とかも出てきたし、そのあと私は直接関わることはなかったけど石井慧にしても、アマチュアのトップアスリートたちが金メダルぶら下げてプロの舞台に挑んでくるみたいなところまでいっていたじゃないですか。今は到底そこまで及んでいません」

――とはいえ、いま現役の選手はそれを観て育った人が多いわけです。

「それはよく言われるんですよ、特に海外でよく言われる。『俺はPRIDEを観て格闘家になった』っていう選手が」

――現在と当時の大きな違いは何なんですかね。

「そもそもの出身母体、PRIDEはやっぱりその前にプロレスという大きな文脈がありますよね」

―ーああ、なるほど。

「その分母を持ってPRIDEという舞台が誕生していくわけじゃないですか。世界的な規模で考えると、UFCを遙かに凌駕していた総合格闘技がPRIDEだったわけですよ。今はそれぞれ自国でローカライズされているものになっていますよね。

世界的なスケール感でこのコンテンツが進んでいかないっていうこともあると思うんですよ。それと圧倒的に団体が増えたことで選手が分散されています。当時は世界中の選手が海を渡って日本に来たんですよ。だからレベルの高い選手がレベルの高い試合を見せる。今は特に外国人選手はいい選手を発掘してくるのが大変で、大半のトップアスリートはUFCにいて、二番手はベラトール。それ以外は自国のプロモーションに何人かいるんですけど、アメリカという大きなマーケットに独占的にいい選手が囲われていますよね」

――PRIDEの選手のレベルの高さは凄かったですね。日本人選手が出てなくても盛り上がっていました。

「そうですね。日本のファンの方たちはそういうものを観るだけの教養とか知識があるんですよ。2015年の頃は、格闘技の醍醐味を魅せるのはヘビー級しかない、という指針でヘビー級にもう一回スポットライトを当てて、ワールドワイドで世界中からトップアスリートを集めようということでやってはみたものの……。パフォーマンスが悪いわけでもないんですよ、ヘビー級の試合も面白いし、いいものを提供できていると思うんだけど、何か足りないんですよね」

 

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