『水道橋博士×町山智浩 がメッタ斬りトーク』 週刊文春が掲載を諦めた「禁断の対談」を公開!(1)

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博士:スイマセン。この登場の仕方は町山さんのリクエストなんですよ。ボクはちょっと、このコスプレが恥ずかしい……。

町山:『藝人春秋2』は上下巻に007シリーズの副題がついてて、音符が出てくるんですよ。これが、今、かかっている曲なんですよね。

博士:映画で、お馴染のジョン・バリーの『007』のテーマの楽譜は、正確に音拾ってますから。

町山:ほんとに!? じゃあ著作権の申請しないと使えないんじゃないの。

博士:著作権の申請はしてるはずです。

町山:著作権料をわざわざ払って音符載せる意味って?

博士:なぜ楽譜を入れているのかというと、この本のチューニングとして、全編、読んでいる間、この曲が行間から流れていくっていう設定があるんですね。テーマはスパイなんで。
それは一作目を書いたときに、「自分は芸能人ではない。むしろ芸能界に潜入したルポライターだ」っていうボクの役柄の設定、自覚があったんですね。自分がそういう存在ではないか、自問自答しながら書いていく。で、『藝人春秋2』を書いたときに、前作のテーマを乗り越えるためにはどうすればいいか? ルポライターより、潜入工作員のほうが深いんじゃないかって思いついて。そこからボクの設定はイギリスの諜報組織M16のスパイになって(笑)
本編の流れの中でね。あ、実際にはスパイじゃないですよ。時節柄、北の工作員だと思われたら困りますから。

町山:北野たけし軍団だけにね(笑)。

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博士:そういう設定をやって、まず、文春の連載時には、「週刊朝日」の佐野眞一がしくじった「はしした」問題で、雑誌業界のタブーになっていた橋下徹知事・第一章を書いて、二章にはデーブ・スペクターが来てるんだけど、それは007の敵が「スペクター」っていうことで掛かっているから登場する。(会場から拍手)

町山:みんな分かってるよ(笑)

博士:嬉しい~! で、そのスペクターと俺・大木ボンドならぬ小ボンドが、上巻では、橋下徹を東京に仲介した「スペクター」という謎のスパイ組織と戦っているっていう設定を作ってるんです。

町山:彼、デーブ・スペクターも売りがCIAのスパイじゃないですか。

博士:そうそう、「オマエはCIAのスパイだろ!」って実際、大島渚に言われたことがあるんです。「朝生」の生放送で。でも、この本のデーブ・スペクターの経歴は、過去のどの本よりも詳細だと思う。
だって、アメリカ時代の経歴は英文を取り寄せて調べたから。でも、オチは、新幹線車内の「フェラハラ」だから(笑)。今も、番組でこの話をすると、必ず、デーブが赤面しますよ。

町山:「新幹線だけにエキを飛ばしそうになりました(笑)」というオチをつけたデーブさん、やっぱり天才だと思いました。
で、『藝人春秋2』って本は、博士がスパイとして芸能界を潜入捜査するというコンセプトなんですが、それって博士自身は芸能界の部外者だという意識があるってことですか?

博士:町山さんの批評にもあるけど、ボクは根っこはそんなに自己顕示欲が強くないと思います。思春期は特に表に出たい人でもなかったし。元々はね。そういう意味では芸能界への違和感はすごいです、常に。前へ出たいって自意識の中がないし、リアルに引きこもりの学生時代を送ったし。
だから、ある日、芸人になることで、自分以外の自己実現のラインを飛び越えたんです。『藝人春秋1』では『サボテン・ブラザース』のたとえがあるけど。

町山:甲本ヒロトさんの章だね。『サボテン・ブラザース』というコメディ映画に、地面に線を引いて、戦いたくない者はこの線の向こうに行け、というシーンがあって。

博士:これは前作からあるテーマですけど、人生において、芸人になる前は、自分が物語の主人公ではないんですよ。だから、主人公、ヒーローになろうと、ラインを越えていったっていう意識があるから。
だから誰を見ていてもそうですよ。この人の自意識ってどこにあるんだろうなあって思って眺めたり、観察したりしてしまうんです。この本だと、一番不思議なのは三又又三です。オフィス北野の後輩ですが、一作目にも登場しましたが、ボクから見ると後輩だけど得体の知れない人物なんです。