「東京一危険な男」に狙われた! 「彼」は迷惑系の走りだった あの時代YouTubeがあったら……|久田将義

とりあえず、名刺交換しようと思いましたが、名刺がないと言います。その代わりA4の紙を差し出し、ここにプロフィールが書いてあるのことです。カン高い声で、

「あの、それ、十枚くらいコピーして下さいっ」

「コピーならご自分でしたらどうですか? そこにありますから」と返答。で、Kはろくな挨拶もしないまま、自分のプロフィールをコピーし始めました。

『クイックジャパン』(太田出版)にコラムを書いていると言って、見せてくれました。それと演劇をやっていると言います。プロフィールにも書いてあり、会場が僕の出身校、法政大学の関連施設とありました。僕は「ああ、法政大学にも行ったんですか。僕、あそこを卒業したんですよ」とお愛想のつもりで言います。

すると「へー」と一言だけ。鼻で嗤われました。

参ったなと困っていたら、詩を書いてきたので見て欲しいと言います。詩という時点で「ああ、うちの出版社と合ってないな」と思い読んでみると、まるで意味がわからない。つまらない。さーっと目を通し、とりあえず「興味深いものですねぇ」と言ったら「そんなに早く読めるもんなんですかぁ」とまた憎たらしい返し。そして、少し仕事っぽい話をして帰ってもらいました。

帰ったあと、編集部内の先輩が「気味悪いなぁ」とか「危なそう。ナイフとか持ってそうだよな」と口々に言っていました。皆さん、そう見えたようです。

それから食事も奢ってあげたりしました。ただ話をしているうちに、ようやく彼の本性を理解しつつありました。まずだいぶ勘違いをしています。

「貴方は僕の才能をどう感じているんですか!」

「僕と仕事をしたくないんですか!」

「僕の才能を埋もれさせていいんですか!」

などの、勘違い発言に辟易してきました。

また会社に電話がかかってきたので、ハッキリ言ってあげた方が彼のためになると思い、「僕と仕事をしたいと思っているんですか! 僕の才能に触れたいと思っているんですか!」と始まったので「うん、全くない」と言いきりました。強引に受話器を置きました。

年末。歌舞伎町で飲んでいる時にまた携帯にかかってきました。今度は哀願口調でした。こちらも取り付く島もない態度で接してすぐに電話を切ろうとします。すると金がないので僕の家に泊めてくれと言うのです。しかも正月に。

「よく考えると、俺のことをナメてんのかな、こいつは」とようやく怒りへと感情のモードが変化します。歌舞伎町のど真ん中で携帯電話に向かって怒鳴っていました。