追悼・宅八郎氏というトラウマ 「僕は宅さんとモメて十二指腸潰瘍になりました」

宅氏は一世を風靡したライターといってよいでしょう。文章力は天下一品です。知り合う前は、編集者としてそこに憧れていました。

ただし、この人は編集者やライターとは長続きしないという噂がありまして、それは単に宅氏が「筋を通しすぎる人」だからと考えていました。むしろ、筋を通さない編集者が悪いのだという解釈です。

テレビ出演もなくなり、当時、あまり仕事をしていないと聞いていました。『SPA!』誌上で小林よしのり氏とのいざこざでツルシ編集長とともに雑誌を去らざるをえなかったことも要因でしょう。

『噂の真相』の連載を降りたときのいざこざは後に色々な人から聞いたのですが、『SPA!』のいきさつは『教科書が書かない小林よしのり』(ロフト出版)に詳しいです。今回はそれが本題でないのでここは流します。

この才能を埋もれさすのはもったいないと僕は考えました。多少気むずかしいところもあるのでしょう。しかし、才能ある人に限ってそういう点もあるわけだし、そこを何とかするのが編集者の腕の見せ所(この時点で僕は宅さんと面識はありません)。

宅氏の原稿は臨場感、皮肉、相手へのダメージを与える文体など、あれだけ書けるライターはなかなかいない。奇才といって良いです。その才能に触れてみたいと思ったのです。編集者ならそう思うものです。

そして、実際の原稿は編集者生活の中でも記憶に残るものでした。サブカルで言えば青山正明、杉作J太郎、吉田豪、そして宅八郎各氏の原稿は、貰った時「すげぇ」と声を挙げたくるものでした(ノンフィクションはまた違う人がいます)。