紀州のドン・ファン事件で気になる「ウラの司法取引」という捜査手法|李策

紀州のドン・ファンこと和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助さん(享年77)が変死した事件で、県警は4月28日、元妻の須藤早貴容疑者を殺人と覚醒剤取締法違反容疑で逮捕した。

2018年5月24日に死亡した野崎さんの遺体には不自然な点があり、警察が司法解剖を行ったところ、体内から致死量を上回る覚醒剤成分が検出されていた。

これまでに伝えられたところでは、野崎さんが亡くなった時間帯、自宅には須藤容疑者しかおらず、台所や掃除機から覚醒剤が検出されたという。また、警察が須藤容疑者から提出されたスマートフォンを調べたところ、彼女が事件前に覚醒剤について調べ、密売人と接触していた可能性が高いことが判明したとされる。

だが、これらはいずれも状況証拠であり、警察がほかにどのような決め手を持っているのか(あるいは持っていないのか)は不明だ。

仮に、警察が何らかの決定的な証拠を握っていないなら、「須藤容疑者の自供を引き出さない以上、裁判の難航は避けられない」と、刑事事件に詳しい弁護士は語る。逆に言うなら、「捜査の行方は須藤容疑者の自供をどのように引き出せるか、そしてその前段として、覚醒剤の入手をどこまで確実に立証できるかにかかってくる」(警察関係者)。

そこで気になるのが、捜査現場で実質的な「司法取引」が行われてきた事実だ。司法取引とは一般的に言って、被疑者が犯罪事実を認めるのと引き換えに、検察側が量刑などにおける利益を与える手法だ。