紀州のドン・ファン事件で気になる「ウラの司法取引」という捜査手法|李策
「他のメンバーがやったことを洗いざらい話せ。そして、お前を有罪にできるネタをひとつだけ吐けば、それで勘弁してやる」
男性はこの時点までに、複数の強盗事件に関与していた。そのすべての事件で起訴され有罪となれば、長期の服役を免れない。そこで警察は、元の仲間を有罪にできる情報を提供すれば、1件だけの起訴で目をつぶると持ち掛けたわけだ。
しかも、最終的に男性が起訴され有罪となった罪状は、窃盗が1件だけだった。法定刑は強盗罪が5年以上、窃盗罪が10年以下の懲役。男性の犯歴などを考慮した場合、強盗罪で起訴されたら窃盗よりも重い刑を受けるのは確実と見られた。
これは法の規定に沿った司法取引ではないが、実質的な、あるいは「ウラの司法取引」とも言えるやり方だ。
これを「紀州のドン・ファン事件」に当てはめるとどのようなことが考えられるか。和歌山県警が、野崎さん殺害が須藤容疑者の犯行であるとする状況証拠を固め、須藤容疑者に自供を迫るために何より重要視するのは、覚醒剤の密売人の証言だと思われる。