見えない代わりに 前編 「視力と引き換えに彼が得てしまった能力とは」|川奈まり子の奇譚蒐集三〇

大阪府在住の「怪談好きなすぅさん」こと佐々木澄夫さんは、約17年前、40歳のときに糖尿病の合併症が原因で視力を失った。

一縷の望みをかけて最後の手術を受けた日は澄夫さんの誕生日で、願掛けの意味がこめられていたのだが、残念な結果になってしまったのである。生まれつきの視覚障碍者ではなく、ほんの1年ほど前までは標準的な視力を持って、会社勤めをしていた。失ったものの大きさに呆然とするほかなく、澄夫さんは精神を病んで、退院後の3年間は実家に引き籠もっていたという。

すでに40歳。澄夫さんはまだ独身だった。闘病中に失業し、治療に費やして貯えも乏しい。さらにこうして急に真っ暗な虚空に放り出された。

絶望しか感じ得なかったのだ。

しかし、やがて彼は視力と引き換えに不思議な力を得たことに気がついた。奇しくも自分の誕生日に見える世界と別れることになったが、もしかするとそのとき、見えないものを感じる能力を備えた人として、澄夫さんは新しく生まれ直したのかもしれない。

そう、幽霊なのか妖怪なのか、それとも神と呼ばれる存在なのか定かではないが、常人には見ることが出来ない怪しい存在を感じ取る能力を、彼は視力と引き換えに得たのである。

そしてその力が、彼を再生への道へ導いた。

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