古今蓮華往生 「2人して和やかにの不忍池の蓮の花を見つめたまま、スーッと遠のいていくんです――」|川奈まり子の奇譚蒐集三二

この池に、こんな言い伝えがあったとは……

この夏も不忍池に蓮を観にいった。えらそうに「観蓮した」と呼べるほどのことではなく、暑い盛りに上野を訪ねて蓮の花盛りを見物し、ついでに美味しいものを食べてきただけで、この程度なら昭和生まれの東京者なら一度や二度はやった覚えがあるのではないか。子どもが小さかった頃には、ついでに池でボートに乗ったり上野動物園に寄ったりしたものだ。

蓮の花盛りは夏真っ只中、盆の時季である。

だからお盆に欠かせない花になったのだ、と、まことしやかに言われることもある。しかし「卵が先か鶏が先か」ではないが、仏像の台座を蓮華座と呼ぶことからもわかる通り仏教との関係が先にあり、それゆえ日本のお盆の行事に使われるようになったと考えるのが筋だろう。

仏教的な世界観では、蓮華は極楽浄土に咲くありがたいお花。

不忍池に咲き乱れる蓮の花は、ひとつひとつが赤ん坊の頭ほどもあって大きく、紫みの明るい紅色の奥に雪白を滲ませた色も雅やかだ。夏限定ではあるが、繁茂した葉が広い水面を青々と埋め尽くしたようすと相俟って、天上の花がたまさか下界に咲いてくれたのだと信じたくなるほど、浮世離れした景色が現出する。

さて、蓮の花にちなんだ新旧の奇譚を綴ろうと思う。

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