地下で見たもの 「たちまち、黴臭いような饐えた体臭のような、なんとも厭な臭いに包まれた――」|川奈まり子の奇譚蒐集三三

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創作家の加藤さんが上野の東京都美術館で行われるグループ展に参加したのは3年前の3月上旬のことだった。

民間主催ながら1970年代から今日まで続いている規模の大きな美術展で、加藤さんは初めて出展することになったので、大いに張り切っていた。

それなりに緊張してもいたが、彼はアーティストとしては遅咲きで、すでに中年と呼ばれても仕方のない歳であり、自営業者として散々世間を渡ってきていたから、慌てることなく作品の準備を整えて搬入日まで漕ぎつけた。

朝早く、東京都美術館まで、梱包した作品を積んだ自家用車を自分で運転していき、駐車場で作品を台車に載せた。

その頃には、同じ展覧会に出展する他の作家も集まってきていた。お陰で初参加であっても迷わず搬入口へ行くことができた。皆の後についていけばいいのだから簡単だった。

東京都美術館は地下3階、地上2階だが、地下1階と地上1階の間にLB階(ロビー階)が挟まる特異な造りだ。建物内の構造はやや複雑で、エレベーターが8基もある。

搬入口はLB階だった。しかし出展者の集合場所は地下3階が指定されていたので、ガラガラと台車を押して下りのエレベーターに乗り込んだ。

そして地下3階の集合場所で展覧会のスタッフに自分の作品を展示する場所を確認してみたところ、そこは地上2階のどこかだとわかった。

階数と部屋番号を書いた紙を見せられたのだ。

だが、なにしろ初めてだから、そこへの行き方がよくわからない。

古参の出展者たちに顔見知りはなく、彼に参加を呼び掛けてくれた画廊主は周囲に見当たらなかった。

と、そのとき、美術館の職員が着るような制服ふうの衣装を身につけた若い女性が目に入った。