宿敵・井筒監督に新幹線内で遭遇した三谷幸喜 『水道橋博士×町山智浩 がメッタ斬りトーク』(4)

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博士:石原慎太郎と三浦雄一郎のところね。下巻になります。しかも、あの話は何が重大かっていうと、慎太郎の政治回想録『幻影なる国家』(文藝春秋)を筆頭にいろんな著作で、三浦雄一郎こそが、自民党が下野され、細川新政権誕生の大きな要因だったっていうことを書いてるから。本の中では『わが人生の時の人々』から引用したけど、日本の政治を変えてしまったのは、この三浦雄一郎がノイローゼだったっていう、ある種の狂言で変わったって主張を再三に渡って、いろいろなところで喋り、書いている。
ちなみにだけど、三浦さんは冒険家、登山家、プロスキーヤーとして、どう考えても世界的な英雄ですよ。

こちらとしてももうぎりぎりのタイミングのことだし、幹部に計ったら急場の凌ぎに仕方あるまいということで細川擁立となった。結果この出来の悪い殿様候補を抱えてみんなどれほど苦労したことだったか。(略)ものの弾みとはいえついには総理にまでなった。総理として大いに活躍してくれたならかつての仲間の苦労も報いられたものだが、どう見ても政治的IQが低劣としかいいようない殿様はついには日本の歴史を冒涜するような発言までして見せ、果ては東京佐川急便のブラックマネーで野垂れ死にの失脚とあいなった。元はといえば、いっても詮ないことだが冒険スキーヤー三浦雄一郎のノイローゼが日本の政治をいささか狂わせたということにもなる。[石原慎太郎『わが人生の時の人々』(文春文庫)より]

町山:説明すると、慎太郎がまず自民党の議員になって、プロスキーヤーの三浦雄一郎を自分の派閥から立候補させようとしたんですね、そしたら突然三浦さんが、ある事情で降りて。その代わりに立てたのが……。

博士:立川談志だ。

町山:そうそう。立川談志。その時に、その後、総理大臣になる細川さんも出るんですよね。実は石原慎太郎の策謀から、立川談志議員と、細川総理が生まれてる。

博士:そうそう。

町山:俺ね、慎太郎っていう人は……。

博士:町山さん、すごい嫌いなんですよ。

町山:うん。すごく嫌いなんだけど、彼は「持ってる」んですよ。すごい色んなものを。例えば岡本喜八が監督デビューしたのも、彼のおかげなんだよね、逆に。

博士:ああ、慎太郎監督の映画がきっかけでね。

町山:石原慎太郎が東宝で一本映画監督したことがあって、『若い獣』、それまでは助監督経験のある人しか監督できない制度だったのに、それを飛び越して彼に監督させちゃったために、労組が怒って、交換条件で岡本喜八監督をデビューさせてるんですよ。それが『大学の山賊たち』っていう映画で、それで山崎努が俳優デビューしてるんですよ。つまり全部そこから繋がってる。

博士:はいはい。慎太郎が遠因になって生まれているものがある。

町山:慎太郎がそこで監督してなかったら、山崎努はおそらく『天国と地獄』に出なかった。『天国と地獄』のラストは山崎努のアドリブに感動した黒澤明が編集を変更して、そのアドリブを最後に持ってくることで、犯罪者側の視点という黒澤がそれまで持っていなかったものが生まれて、黒澤の作風はそこから変わっていった。
だから、映画史における大きなポイントなんです。慎太郎自体の能力とはまったく無関係に、彼はいろんな歴史と奇跡的な絡み方をする人なんですよ。だってヌーヴェルヴァーグだって……後で言いますが。

博士:そういう意味では慎太郎は選ばれし人ですよ。文学だけじゃなくて政治史にも、東京都の歴史にも、ものすごく絡んできたし。今回、東京都の豊洲の移転問題で訴えられ、百条委員会にかけられて、そういうシーンも本で描いているけれども、その時にテレビのコメンテーターでいる若い人、女性も、何も石原慎太郎を1ページも読んだことないような人ばっかりなんだよね。

町山:俺、慎太郎の生原稿読んだよ。死ぬかと思ったよ。

博士:左利きでめちゃめちゃ悪筆なんですよ。