宿敵・井筒監督に新幹線内で遭遇した三谷幸喜 『水道橋博士×町山智浩 がメッタ斬りトーク』(4)

町山:もう泣きそうになった。小林よしのりさんと一緒に、キャピタル東京のところにあった石原慎太郎の事務所行って……。その時ちょうど都知事になる前だったんですけど、インタビューして原稿書いて、送って、(石原慎太郎が)添削してきたんですね、赤入れて。全然読めなくて、しょうがないから事務所行って、これなんて書いてあるんですかって秘書の人に聞いて解読して。

博士:石原慎太郎担当は各社読めるようになるらしいですね。

町山:あれすごいな~。不可能だよ。

博士:なぜあれだけ思想が右寄りなのに左利きなのか(笑)。

hakase4-4.jpg

町山:俺、尊敬しましたよ、慎太郎の字を読める人。で、そのインタビューの時にね、彼の偉大なイメージとか、マッチョなスポーツマン、スパルタなイメージについて話したら、「俺そうじゃないよ」って言ったんですよ。
慎太郎の小説に登場する、女にもてて、スポーツができる主人公は、自分じゃなくて、弟なんだ、石原裕次郎のことなんだ、と慎太郎ははっきり言いましたよ。

博士:それは、慎太郎の本では何回も言ってる。

町山:慎太郎自身はそういうタイプじゃなかったから、弟をイメージして書いたんだと。『太陽の季節』も、「主人公は自分じゃないんだ、弟なんだよ、裕次郎なんだよ!」って、はっきり、僕と小林よしのりさんに対して言ってるんですよ。でも彼、その男らしいイメージで振る舞っていたことも事実なんですよね。

博士:全ての英雄がそうなんだけど、他人が言ってるエピソードが、全部自分のエピソードに変わっていく。お笑いとかレスラーは客商売だから顕著なの。俺も何回も経験してる。しかもその盛ったシーンって、自分の脳の中に映像があるんですよ。だからそれは怖いんですよ。ボクだって英雄でもないのに、年取ってからよく起こるもの。

町山:だから年表作ってんだ? 人は記憶を作り変えるし、忘れちゃうからね。

博士:そう。忘れるのが怖い。それで過去を裏取りしながら、自分史もちゃんと作っていかないと。そういう強迫観念があるんだろうね。

町山:ああ。俺も博士が作った年表を読んで、全然覚えてないことが書いてあって驚きました。「こんなこと俺したっけ?」って。

博士:自分たちのようなノンフィクションを愛好していて、メモ魔みたいな、原稿を残す人だって、こうやって記憶が移り変わるわけじゃん。ましてや、ヒーローであったような人、時代に選ばれた人、もちろん、たけしさんは横で見てるけど、たけしさんのエピソードなんかもどんどんと移り変わっていく、最終的には、ボクはたけしさんの評伝書きたいから、今からずっと色んな証言や、資料を集めてるけど。
もう1個言うと、その前に『新潮45』で、百瀬博教さんの評伝をやるつもりだけど、それは10年かかりで書いてるから。もともと百瀬さんは裕次郎さんのボディガードだったから、その影響で慎太郎についても調べ出したんだけど、膨大な量になってて……。俺は、自分が書くものは、超(スーパー)・ノンフィクションって言ってるけど、ささやかな罪にならないような面白いことは、面白い方を採用してることはあるけれど……。基本は事実をベースに……。

町山:すごいですねこの調査力が、全然本人たち覚えてないネタとかあると思うよ。ええ? みたいな、こんなことあったっけ? みたいな。

博士:文藝春秋のすごいところは、編集者もだけど、ボクが書いた、この時の、この台詞が本当だったか確かめて欲しいっていうのを、テープを取り寄せ、この出どころはどこかみたいなのは、本当に膨大な時間をかけて裏取りを全部やりました。

町山:すごいですよ、これ結構。

博士:だから、軽いエッセイってボク書けなくなっている。映画が楽しかったな〜、なになにが美味しかったわ~みたいな。

町山:でも、それだけ一生懸命調査しても、三又又三のキンタマには勝てないんだよな~。面白さでは、キンタマが勝っちゃうから。本当にね、読みながらこれどういう意味なんだろうって、頭ものすごく使うの博士の文章って。読むと。

博士:それね、『お笑い男の星座』を書いた時も言われた。編集者が、推敲の痕跡が、同業者だと後ろめたくなるって(笑)。掛詞が多すぎるんだね。

町山:『藝人春秋2』で死ぬほど笑ったのが、三谷幸喜さんのところ。