宿敵・井筒監督に新幹線内で遭遇した三谷幸喜 『水道橋博士×町山智浩 がメッタ斬りトーク』(4)

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博士:これは自信があるね。あの章の面白さについては。しかも全部実話。

※単行本発売後、三谷幸喜が「脱帽 博士の記憶と筆力」というタイトルのコラムで証言している。

 三十年以上前に、三遊亭円丈師匠が書いた「御乱心」という小説がある。落語協会分裂騒動の顛末を描いた実録物(?)だ。その酒脱な筆致、人物描写の巧みさは、今でも僕が文章を書く時のお手本。そして水道橋博士の文章を読む度に、僕はこの「御乱心」を思い出す。題材の選び方もそうだし、人物への愛情の注ぎ方も似ている。そこからあふれ出るおかしみも。師匠と博士は我が国の、隠れた二大ユーモア作家だ。
 しかし僕がここで「藝人春秋2」を紹介したかった理由は他にある。下巻の第十章「芸能奇人・対決編1」の主人公は、なんと僕。十年ほど前、新幹線の中で博士と遭遇した際に起きたちょっとした事件の顛末。橋下徹氏、猪瀬直樹氏、寺門ジモン氏といった癖のあり過ぎる人たちの癖のあり過ぎるエピソードの中に突然、僕の話が出てくる。なんだか非常に気恥ずかしい。
 一読して感じたのは、はたして僕の章は他の章と同じくらい面白いのか。爆笑実録物としてのクオリティーを保っているのか。なにしろ当事者なので、冷静に読めないのだ。僕は博士にネタを提供しただけで、執筆には一切関わっていないが、やはり自分のことが書いてある以上は、面白くあって欲しい。
 非常に残念なことではあるが、ここに登場する僕は、まったくいいところがない。あの悪評しか聞こえてこない、芸人三又又三氏ですら、愛すべき人物として描かれているというのにだ。
 博士が車内で出会った「三谷幸喜」という脚本家は、ただの「迷惑な子供」。「いい歳してお前何やってんだ」的な言動を繰り返す変人である。これはあんまりだ。面白ければ何を書いてもいいのか(しかも本当に面白いかどうかは僕には分からない)。だが、なにより腹が立つのは、ここに書かれていることが、すべて事実ということである。
 博士の記憶と、文章による再現力に脱帽。

2017年12月7日『朝日新聞』夕刊 「三谷幸喜のありふれた生活」より

町山:でも、あれは博士の作ったことじゃないじゃない。

博士:うん。本当に新幹線で起きたこと。あの章は、江口寿史先生の挿絵も完璧ですよ。三谷幸喜三と井筒監督が互いに同じ角度で睨み合っているんです。

町山:これ新幹線の中で、井筒監督が新幹線の席に座ってて、その前後に博士と三谷幸喜さんが座ってて。三谷幸喜さん、作品を井筒監督にいつもボロカス言われてるから、いつかなんとかしてやるって思ってて、で、博士に「井筒がいたよ」って三谷さんが、「なんとかしてやろう、前後から挟み撃ちにしてやろう」って、ぐーぐー井筒さんが寝てるから。本当に挟み撃ちするんですよ2人で。で、井筒さんを起こさないように、三谷さんが、メモを書いて博士に見せたら、「挟み撃ちにしたはいいけど、何をしたらいいかわからない」って。間抜けだよねそれね。

博士:そのとき、三谷さんが書いた手書きのメモとか全部残してるから。俺、手紙とか、紙ものは、全部、残す癖があるから。

町山:ええ~!!?

博士:だからこれだけ詳細に書いてるんですよ。

hakase4-7.jpg※実際の手書きメモ

町山:でもこれ新幹線は難しいけど、そういう時のためにね、言っておきます。殴ったら犯罪になっちゃうから、何をしたらいいかわからない時、何をすべきか。分かるでしょ? 博士なら。

博士:なんだろ………あ!!! わかった!!! パイだ!!!!!

町山:そうだよ~!!

博士:今の答え、よく出てきた俺。町山智浩年表作ってよかった~。

町山:法律的にはどうか、分からないけどね。

博士:あ、知らない人に言うと、昔、町山さんが『映画秘宝』の編集長をやってた時に、『キネマ旬報』編集部に殴りこみにいって、殴るかわりに、パイを投げつけるっていうね、『ベイビー・ドライバー』的なことをやってるんですよ。

町山:パイはシェーヴィング・クリームで作ると服にシミが残らないからいいですよ。

博士:なるほどね。だけど、新幹線の中にパイは用意してないじゃん。

町山:用意してないんだよね。

博士:だって偶然出会うんだから~。

町山:新幹線だから難しいね、何したらいいかね。顔にいたずら書きとかだと起きちゃうしね。

博士:新幹線の中で起きた出来事じゃない。本当にあった出来事で、石原慎太郎と石原伸晃が、大橋巨泉を挟み撃ちにするっていう事件が実際にある、本の中では、それを引用してそっからやってるんだけど。下巻の、ここに書いている。