能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第3回

文筆家・好角家で知られる能町みね子さん。

文筆家で好角家の能町みね子さんと日本体育大学相撲部監督で相撲理論研究者の齋藤一雄先生との対談は3回目になります。おかげ様で第1回、2回と好評ですが今回で残念ながら最終回。今回はいよいよ、大相撲の技術や心技体など、より深い話が展開されました。相撲通の方も相撲を見始めたばかりの方も必読です!

 

第3回★齋藤監督が見る大相撲

 

●技術論から見た白鵬の相撲

――先日引退した元横綱白鵬(現・間垣親方)の強さをどういうふうに見てるのか、研究者として解説して頂きたいと思いますが……。

齋藤一雄先生(以下・齋藤先生) 競技者としては素晴しいですね。これは誰も否定する人はいないと思います。もし、アマチュアの相撲という競技だったら「強い」の一言で終わってしまうと思います。でも、大相撲の横綱は、価値観とか常識を求められるじゃないですか。白鵬関にしてみれば、ルールで間違ったことをやっている訳ではないのに、「なぜ怒られなければいけないんだ」という気持ちが現役中は強かったと思うんですね。万歳三唱した、何をした、というのはまた別の話だと思うんです。
例えばカチ上げてはいけないとか、張り手をしてはいけないと言われますけど、白鵬関は「それだったらそもそも禁じ手にすればいいじゃないか」と思ったかもしれない。でも、白鵬関は言わなかったと思うんですよ、競技者として考えたときに。
だから、最後は優勝したじゃないですか。15戦全勝。仕切り線の後ろの方から仕切ってみたり(正代戦)、立ち合いからちょっと変わったことをやってみたりしましたよね。でも「勝つために」ということを自分の一番のプライオリティに置いたのであれば、競技者としては「素晴らしい」の一言しかないですね。

能町みね子さん(以下・能町さん) 確かに立ち合いで飛び道具的なことをよくやって批判されてはいましたけど、本来はオールマイティな横綱ですよね。最高の技術を持った人だと思うんですけど、その真髄といいますか……どこがいちばんすごいんでしょうか?

齋藤先生 まず、反応が良いです。これは皆言っていますね。横綱と大関の違いについては昔から、「大関は強いだけでもなれるけど、横綱は負けてはいけない」と言われています。私の理論からいうと、相撲というのは「相手に勝つ勝ち」と「相手が負けてくれた勝ち」があるんですよ。白鵬関の相撲って、「押し込まれて危なかったけど勝った」みたいなケースがけっこうあるんですよね。あれは勝った相撲ではなくて、「負けなかった相撲」なんですよ。そういう意味で、負けないということに関しては横綱として素晴らしいな、と。

能町さん 負けないことに特化している?

齋藤先生 (うなずきながら)強さもあります。だから、強くて、負けないんですよね。横綱というのは何場所負けたら番付が下がるという決まりがなく、自分で辞めると言うまで辞めなくて済みます。でも、弱くなったら辞めなければいけないじゃないですか。
イチローさんはクリーンヒットもあるかも知れないけど、そうでないヒットもあったと思うんですよ。だから打率も稼げただろうし。大谷翔平選手なんかも、ものすごく良いホームランもあったけれども、「自分としてはダメだったけどホームランになっちゃった」ようなケースもあったと思います。そういう感じで、元々の基礎力が高い。
競技者として見たときに、選手の能力って平均点と標準偏差だと思っているんです。例えば横綱と大関が当たるのと、大関と関脇が当たるのと、関脇と幕内が当たるケースがあります。幕内の力士の強いところが出たときに横綱のいちばんダメなところが出ると、幕内が勝ったりもする。幕内と十両でも同じようなことがあって、十両と幕下でも同じようなことがある。だけど、横綱は幕下には負けないと思うんですよ。

能町さん ああ、なるほど。

齋藤先生 こういう関係性がある中で横綱は相撲を取っていて、それでも白鵬関は他の横綱と比べて元々の平均点が高かったと思うんです。俗に言う、地力ってやつです。例えば白鵬関も、全然負けたことがない人もいれば、中には五分に近いような成績になる人もいる訳ですよ。相性という言い方をしますけど、相手が白鵬関の悪いところが出るような相撲を取る場合は、相性が悪い。逆に力を出せる人にはあまり負けないと私は思っています。

能町さん 標準偏差の考え、確かにわかります。タイミングによってたまに「エラー」が起こるというか。

能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第1回 | TABLO