能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第3回

齋藤先生 大関は強ければなれると思うんですよ。横綱は……もっと強くなきゃダメですね(笑)。

能町さん 稽古を見て、今の花田選手(2年生。第99回全国相撲選手権個人戦準優勝)にはすごく期待してます。

齋藤先生 是非。楽しみにしてやってください。中村(泰輝選手。3年生。第70回全日本選手権優勝。アマチュア横綱に)なんか、高校のときは学年で一番じゃないんですよ。

能町さん そうなんですか!

齋藤先生 あの学年の一番は、今のでは北の若(八角部屋)です。彼に全然勝てなかったんです。

 

●大相撲これからの若手は……?

能町さん 北の若もやっと関取になれるかどうかぐらいまで来ましたね(取材時点。来年初場所での昇進が決定)。北青鵬関(宮城野部屋)はどうですか?

齋藤先生 あの力士はもともと日本で生まれたんじゃないかな。

能町さん 小学校の頃に親の都合でモンゴルから札幌に来たんだったと思います。

齋藤先生 義務教育もほとんどこっちで受けてる力士ですよね。高校2年のときに初めて見て大きいなと思って。花田と同級生なんですよ。もちろん良いんですけど、そんなにとんとん拍子で上がってないんで。幕内まではスッといきますけど、相撲自体はまだ甘いです。

能町さん すごい腰高というか、ほぼ棒立ちですよね。あれで勝てちゃうのがすごいです。

齋藤先生 そうなんですよ、あれで勝ったのはビックリしたんです。高校時代の格は北の若のほうが上だったんですよね。学年はひとつ上ですけど。北の若は相当苦労してるんじゃないですかね。

能町さん そうですよね。でもやっぱり北青鵬があれだけやってるのは、間垣親方(元・白鵬)の指導があるんですかね。

齋藤先生 高校時代から鳥取城北高校で基礎を学んでいて、あと体が大きくなったということですよ。

能町さん まだポテンシャルだけで勝ってる、ぐらいの感じですか?

齋藤先生 はい。特別何か指導を受けてどうこうじゃないです。もともと相撲をある程度は知ってるので、ただ体が規格外に大きいっていうことで勝ってます。

能町さん じゃあこれから一旦苦労する感じがありますか?

齋藤先生 おそらく十両は何場所かで通過するかもしれないですけど、そのまま大関、横綱になるかといったらちょっと分からないです。

能町さん そうですか。貴ノ浪みたいな感じの相撲になるのかなってちょっと思ったんですけど。

齋藤先生 ああいうスケール大きな相撲取ったら面白いですね。

能町さん これからの若手で言えば、あとはもっとホントに若い子で、大辻っていう幕下の18歳の子なんかはどうかな、って思っているんですが……。

齋藤先生 どこの力士ですか?

能町さん 高田川部屋ですね。中卒でこんなスッと上がってくるのは久しぶりだなと思って見てます。相撲がどうっていうのは私はよく分からないんですけど、まじめそうな感じの子だなあ、って。

齋藤先生 高田川部屋は稽古が厳しいんで、それにハマれば良いんじゃないですかね。高田川親方は私も40年ぐらい前から知っているんです。何度か稽古もさせてもらったことあります。学年は私の1つ上なんです。(旧姓)山中(勝巳)さん(元関脇・安芸乃島)。輝関あたりはどこの部屋に行ったって関取になっていたと思いますよ。ただ、あのへんで満足しちゃいけない力士ですね。

能町さん そうですよね、ポテンシャルはすごいですもんね。ほかに、大相撲で気になってる若手力士はいらっしゃいますか?

齋藤先生 誰だろ……あんまりいないですね。

 

●齋藤先生が大相撲を観に行くときは

能町さん 大相撲はけっこう観に行かれますか?

齋藤先生 両国でやるときは、1回は行きます。

――テレビに絶対映ってますよね。

能町さん そうなんですね! 向正面ですか?

齋藤先生 はい(笑)。

能町さん 大相撲ではどういうところを見ているんですか?

齋藤先生 学ぶべきところはどこにあるかなと思って。単に勝った負けたっていうのはテレビで観てても分かるんですけど、たとえば、汗かいて入ってきてる力士はどんな人かとか。ちゃんと準備運動して入ってくる人もいれば、何もやらないでサラッと入ってくる人もいるし。あとは、立ち合いの仕切るときの足の指がどうなってるかとか。

能町さん 足の指! 咬んでるかどうかってことですか?

齋藤先生 土俵に力を入れてる、とか。

能町さん 大相撲だと、終わったあとに花道を下がるところにモニターがあって、そこでタイミング的にちょうどスロー映像が流れますよね。あれは日体大の稽古場のモニターにも似ていて、そこで確認してみんな復習していると思うので、いいですよね。たまたNHKがあそこにモニターを設置してるからできることですけど、もうちょっと公式でやっても良いなと思うんですよね。

齋藤先生 そうですよね。あと、大相撲だったら大きなモニタを入れておいて、例えば物言いの一番を再生することもできると思うんですよね。場内にいる人ってどういう相撲を取ったかわからないじゃないですか。角度によっては全然見えないし。

能町さん それは私も昔からどうにかならないかと思ってます。ただ、国技館にドーンと置くと風情がないっていうのも分かるんで、そこの妥協案が何かないものかなと思いますね。例えば手元に小さいモニタがたくさんあるとか、そんな形があると面白いですね。――それにしても、今日は本当にいい稽古を見ました。いま特に、相撲部屋に見学にも行けないご時世なので、本当にありがたかったです。

齊藤先生 いえいえ、またいらして下さい。(了)

これほど息の合った相撲談義は中々聞けません!

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■プロフィール

齋藤一雄
昭和六十三年、全日本相撲選手権において優勝する。翌年、平成元年の全国学生相撲選手権では団体優勝を果たす。日体大の教員を経て平成十六年から学友会相撲部の監督に就任。平成十九年・二十年・二十三年・二十六年と監督として全国学生相撲選手権で本学相撲部を学生日本一に導く。2021年第99回全国学生相撲選手権大会の団体戦で7回目の優勝を果たす。また、個人戦においては平成二十年から七年連続決勝進出者を輩出し、数々の横綱に輝いている。日体大からの学生横綱 垣添徹(後に小結「垣添」)、明月院秀政(現幕内「千代大龍」)、中村大輝(現幕内「北勝富士」)、一ノ瀬康平、中村泰輝(現3年生)、デルゲルバヤル(現幕下「欧勝馬」)。日本体育大学教授。医学博士(日本体育大学相撲部ホームページより)

能町みね子
北海道出身。文筆業。著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』シリーズ(文化出版局)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)、『私以外みんな不潔』(幻冬舎)、『結婚の奴』(平凡社)など。NHK「シブ5時」出演の際は、その場所の相撲の見どころなどを紹介・解説する好角家。