「拳で稼ぐ。僕の格闘家としての美学です」 総合格闘家・『拳聖』平本蓮

「打撃の天才」がMMAでも開花と言ってよいだろう。

かつて「拳聖」と呼ばれた空手家がいました。その人物をモデルに漫画『喧嘩稼業』(木多康昭著)では、里見賢治という空手家を登場させました。10代で天才と言われたものの、空手王と言われた山本陸に敗れ失意の元、中国にわたり自分の空手(玉拳)を完成させ帰国。そして里見賢治の闘いが始まる――。漫画は現在休載中。里見は「拳聖」と言われていました。

平本蓮選手も小学生からキックを学び、10代でゴンナパー、ゲーオという強豪を撃破。天才と言われました。が、MMAでは苦いデビュー戦を経験。渡米後、剛毅會空手に出会い、平本選手独特の拳術が開花しつつあります。「濃く強い線を引くには敗北が必要なんだよ」(里見賢治)。里見賢治と平本蓮選手に「天才性」「敗北からの勝利」という共通項があるように思います。

7月28日の超RIZINは「国内最高の試合」と評価されています。朝倉未来vs平本蓮。試合は圧勝であり完敗でした。コロナ禍という厳しい状況の中、日本の総合格闘技界をけん引してきた朝倉未来選手。その朝倉選手は平本選手に一発もパンチを当てる事なく、1Rでマットに沈められました。これほどまでに実力差があったのか――。

今、「言葉を持つ格闘家」平本選手は何を思うのか。取材先に現れた平本選手は「ごぶさたしています」と笑顔で迎えてくれました。約4年前のRIZINデビュー戦のインタビューよりも「圧」を感じました。

 

●「距離感を見つけた。その感覚の鋭さが自分の武器。キックだろうがMMAだろうが関係ない」

――デビュー戦の取材をさせて頂いて以来なので、今日はいろいろ答え合わせをしたいと思っています。ご結婚もされて7月28日、超RIZIN3も経て、色んなことがありました。

平本選手 実際、経験してみると、次にやりたいことの欲求が大きくなって、振り返ることはないかもしれません。コナー・マクレガーと邂逅したのも信じられないです。だから朝倉未来戦が終わって、この勝利を噛み締めていたい気持ちもありますけど、そこで喜んじゃうと怖いなって思う自分もいます。ここで満足するわけがないし。

――今回、「国内最高の一戦」と言われていましたけど、プロの専門家の事前予想では朝倉選手勝利が多かったように思います。戦績(3勝3敗)を根拠にしている人もいましたが、3勝3敗の中身や平本選手の成長率、過去の実績と修羅場くぐった数を推し量っているのかなと疑問でした。

平本選手 いろいろ言ってくるヤツいますけど、僕はデビューしてほとんどメインで、そんなヤツいるのかよって思いますよ。(戦績は)誇らしいです。前は嚙みついたりしていたんですけど、シカトっすね。試合前もイライラするから結果予想とか見ないんですよ。黙らせてやろうと思ってトレーニングを常に続けてそのスタイルでいこうと思っています。

――そのなかで石渡伸太郎さん(元総合格闘家)ら数人(中村倫也選手、吉成名高選手など)が「平本選手勝利」って言っていました。石渡さんは平本選手のパンチを「ハンマー」と言っていました。

平本選手 嬉しいですね。自分を信じてくれた人たちが報われるって言い方も変ですけど。

――石渡さんもさんざん「接待ナントカ」とかディスられていましたからね。聞いておきたかったんですが4年前にインタビューしたときに「キックボクサーの打撃との危険な距離感がある」みたいなお話をされていたんですけど、もうちょっと説明していただけますか?

平本選手 総合格闘技で、自分の得意な距離感を見つけてきた感じはあります。その感覚の鋭さが自分の武器なんです。キックだろうがMMAだろうが。適応能力です。キックの技術というよりは格闘技に対しての適応能力に僕は自信があったんで。だからレスリング力にも組み技にも自信がついてきて、今のスタイルができるようになった。まだまだ研究中なんですけど。

――YouTubeでオーソからの左のミドルとか、ストレートの打ち方を一般の人に向けて解説していましたが分かりやすかったですね。

平本選手 ありがたいですね。今はさらに技術が上がってきて、ステージが変わっていきますよ。3ヶ月単位、1ヶ月単位で変わっていくし、今回の試合の作戦も最終的にあの作戦になったのが2週間前ぐらいです。相手も朝倉未来になりきってキックボクサーを呼んで。組み技もレベルの高い人たちを呼んで。そこをかいくぐって打撃を当てていく。朝倉未来よりもレベルが高いキックボクサーと、朝倉未来に寄ったスタイルのスパーリングを徹底的にやりました。絶対に俺のほうがこの試合に賭けていた。トレーニング、ケア、食事、睡眠、格闘技のためにここまでやったことなかったんで。『ウサギとカメ』じゃないですけど、そのあいだにできることをとにかく詰めてめちゃくちゃやりました。だから3ヶ月なんて一瞬でしたね。

――試合を振り返りますと、初めは距離を測って、右ミドルが来て、1回ステップ踏んで前に踏み込みました。

平本選手 とにかく組ませない遠い距離でというのを思っていました。スピードに自信があったんで。1Rから何度か踏み込んで当てて調整した感じですね。「あと一歩近づけたほうがいいな」とか。2回ぐらい試してみて、やっと朝倉未来が距離外し始めたんで、「これ、もうやっちゃっていいな」って。

――「距離外し始めた」と言えば朝倉選手のローが空ぶった時、距離が合っていないのかと思いました。

平本選手 蹴りが外れると距離がバグるんですよ。で、またリセットしようと相手の動きを集中して見るようになるんで、そのときにしっかり反応してくれてたんで。

――朝倉選手は詰めると、サークリングしないでまっすぐ下がりません?

平本選手 そうですね、下がって右フック。コーナー際とか自分が下がって左斜め後ろにラインを作ってそこから角度作ってタックルに入るとか。あとJTTも普通に練習風景とか、「このコーチがこういうふうにアドバイスしてくれた」とかYouTubeとかで言っちゃっていたんですよ。例えばビリーとエリーは打撃で角度を作らせてレスリングやったり、けっこう細かく練習してるんだなっていうのを再認識しました。

 

●「朝倉未来選手の本来の荒々しさがなくなっていた」

平本選手 試合がないときにそういう練習やるのは分かるんですけど、試合前にそれをやると丁寧になりすぎちゃって、朝倉未来の荒々しいケンカ強さみたいなのが、削がれると思うんです。たぶん朝倉未来は自分のほうが幅が広いから、細かく作戦立ててこなかったと思うんですよ。実際ナメられていた部分もあると思うし。でも僕の場合、倒すパターンは3パターンぐらいしかないですからね。それを細かく決めて作っていたので。朝倉未来はもっと自分の持っている技術に自信持って、多分いつも通り調整してきたほうが、もしかしたら……わかんないです(苦笑)。JTTのメンバーもみんな「過去最強だ」って言っていましたけど、そりゃ基礎的なことやっていれば能力は確実に上がるけど俺の試合で全部使えるのかっていったら、また難しい問題だと思うんで。