憑きもの体験記2「やがてそれは、ズルズルと足を擦りつけながら、枕もとの方へ接近してきた」|川奈まり子の奇譚蒐集三九

何者かが、そこに腰かけた。

ベッドの上に跳ね起きて、足もとを見た。

誰も……いや、陽炎のような奴がいるのかもしれない。

手探りでサイドボードの調光スイッチをひねって、明かりを点けた。

足もとの空間は、どこも歪んでも揺らいでもいなかった。

マットレスが沈んでいる感じも、いつの間にか消えていた。

そこで、再び部屋を暗くして、枕に頭を落ち着けた。そして目を瞑る……。

まただ! マットレスの端が沈んで、振動が伝わってきた。

片手を伸ばして調光器のツマミを回して明かりを点け、首をもたげて足もとを窺った。

何も無い。

そこでまた明かりを消して眠ろうとすると……ギッとマットレスのスプリングをきしませて、端に何かが乗ってきた。

仕方なく明かりを点けて足もとを確かめたが、先程と同じ。やはり何も変わったようすは見られない。ところが暗くして横になった途端に……。

これを何度も何度も、明け方まで繰り返す破目になった。

 

次の夜は、寝ること自体が恐怖だった。

見たくもないケーブルテレビの通販番組を点けっぱなしにしておいて、朝陽が昇るまで起きているつもりで、蒲団に入らず、ベッドの端に腰かけていたのだが、気づいたらベッドカバーの上に横たわっていた。

遮光カーテンの隙間が白く光っている。

無事に朝を迎えることが出来たのだ、と、胸を撫でおろした。

寝不足が幸いして、怖い思いもせず、いつの間にか寝落ちしてしまったとみえる。もしかすると寝過ごした可能性もあると思いついた、ちょうどそのとき、

「すみませぇ~ん」

と、間延びした声で呼びかけてきながら、誰かが部屋に入ってきた。