赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

石川政宗さんは現在46歳で、主に東京都渋谷区など都心部の街路樹や植栽の管理を手掛ける造園会社を経営しているが、造園業に初めて携わったのは18歳のときだという。その頃、原宿にある老舗の造園会社で働きはじめて、29歳で独立した次第だ。

これからご紹介する出来事が起きたとき政宗さんは22歳で、代々木公園の樹木の伐採作業をしていた。

当時、勤務先が渋谷区の植栽管理を1年契約で請け負い、その一環として代々木公園の木を間引くことになり、彼が作業に当たった次第だ。

――そういうわけで、その8月の炎天下を政宗さんは区役所の担当者・Aさんと区が選任した学者と連れだって園内を歩き、指定された木を伐り倒していた。

東京の8月は暑い。ましてや伐採作業に向いた快晴の昼間だ。

さっさと仕事を済ませてエアコンのきいた室内へ逃げ込みたいものだが、そうもいかない。お役所の仕事なので、木を伐る前と伐った後に、その場所で「施工前」「施工後」などと記したホワイトボードを掲げて写真を撮り、間違いなく作業をしたことを証拠づける記録を取っておかなければならなかった。

そのためAさんが小さなホワイトボードを抱えて政宗さんたちと同行していたわけだが、このAさんと政宗さんは歳が近かった。

会社が区役所と契約を交わしてからすでに数ヶ月経っていて何度も顔を合わせていたこともあり、お互いに気心が知れていた。

だから暑いことを除けばリラックスした雰囲気でミッションが進行していたのだった……途中までは。