赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

「これは伐りたくないなぁ」

と、強く思い、悪い予感を覚えた木に出遭って政宗さんがたじろいだのは、園内の森の中でのことだった。

そこに忽然と、垣根で囲まれた一角があり、何かの記念碑が建てられていた。しかし辺りは寂れており、訪れる人が滅多にいないようだ。政宗さん自身も、ここにそんな碑があることは知らなかった。

問題の木は、この記念碑のそばに生えていた。

樹齢60年にはなろうと思われる、高さ20メートル以上もある銀杏の大木で、区が伐採すべしとした理由は「安全管理のため」ということらしい。周囲の木より飛びぬけて背が高いため、確かに、落雷などの危険性がないとは言えない。

しかし政宗さんは、この木だけはなんとなく伐りたくなかった。

植木屋として健康で立派な樹木を伐りたくないといった感情的な理由ではなく、いわば霊感的に「この木を傷つけてはいけない」と直感したのである。

しかしAさんや学者に「霊感が止せと告げているので伐らなくていいですか?」とは言えなかった。会社が引き受けた仕事ではあるし、信じてもらえるわけがない……。

政宗さんには少しだけ霊感があって、彼自身は心霊現象なども信じるたちだったけれど、常識というものもわきまえていた。