赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

だが、すぐそこにある碑文を読んだところ、終戦直後に大東塾生ら14人がここで自刃したのだとわかった。しかも、「建碑に当っては米軍進駐前に採取した血染の砂が碑の下に納められてゐる(原文ママ)」と記されているではないか。

碑銘は《十四烈士自刃之處》。

「さあ、やりましょう」

Aさんに促されて、断ることも出来ず、政宗さんはその銀杏の大木を伐った。そしてAさんがホワイトボードに「施工後」と書いて切り株の写真を撮影し終えるまで、なんとも落ち着かない、厭な気分を味わった。

Aさんが写真を取り終わると、ようやくその場から逃れられるので、ホッとしたのだが……。

そこから15メートルほど離れたときだった。

ふと気配を感じて振り返ると、今伐ったばかりの切り株から身長50センチばかりの真っ赤な人の形をしたものが後ろ向きに這い出てきていた。

驚愕のあまり声も出せずに見ていると、それはすぐにこちら向きに体勢を変えてピョンピョンと跳ねながら接近してきた。

その格好が、樵というか杣というか、昔の林業従事者のようで、ただし、着ているものから肌の色まで真紅に染まり、内側から発光している。つまり赤いライトのように輝いていた。

呆然とするうちに、赤い樵のようなそれは、みるみるこっちに近づいてきた。近づくにつれて縮んでいき、身長5センチほどになると、政宗さんの後ろを歩いていたAさんの身体に飛び込んだ。