赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

政宗さんとAさんは代々木公園の作業の後も、仕事で週に何度も会っていた。

そのAさんが、見るたびに痩せて、やつれていくので、政宗さんはより一層、不安を掻きたてられるようになった。

――あの赤い樵のせいなのではないか。

――十四烈士の自刃と関係がある、祟りなのではないか。

そう思うようになってきたのである。

自分ひとりなら偶然だと考えられたが、Aさんも同じように異常なスピードで全身の肉が削ぎ落されていっていることが明らかになるに従い、怪しい霊現象に巻き込まれたのだと思うようになっていったわけである。

代々木公園の件から一ヶ月後、Aさんはとうとう区役所を辞めてしまった。

体力が続かなくなったのだ。福岡の実家に帰って、精神科を受診するつもりだと言っていた。しばらくすると、鬱病だと診断されたと知らせてきた。その後、離婚してしまったようだが、あとのことはわからない。音信不通になってしまったのだ。

政宗さんも限界だった。意地でも仕事は休まなかったけれど、もうフラフラで、いつ倒れるかは時間の問題だった――いずれ木が倒れるように倒れるのだ、と、彼は自分の最期を頭に思い浮かべるようになっていた。