赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

気がつくと、すぐそばにちんまりとしたおばあさんが立っていて、彼の手を引いて、立派な木彫りの大黒天の像が祀られている座敷に連れていった。

――凄い拝み屋のようには見えなかったが、彼女がそうだということはすぐにわかった。

手を取られた途端に抵抗する気が失せ、大人しくついていくしかないと悟ったのだ。小柄な老女の全身から、眩いオーラが発せられているのもわかった。後光のように、強いエネルギーが彼女を取り巻いていた。

「名前はなんというの? 大黒様に名前を告げてください」
「石川政宗……」

自分の名前を口にするや、奇妙な感覚が政宗さんを襲った。

身体から魂の一部が抜け出して、おばあさんの中に入ったように思えたのだ。「大黒様が教えてくださいます」と、おばあさんは前置きして「公園で木を伐りましたね」と言いあてた。

「明治神宮の近くの公園で、いわくのある土地に育った木を伐ったことで、こうなったんです。そのとき何か見たでしょう?」

驚きながら政宗さんがうなずくと、「あなたには東伏見の白いお稲荷さんが憑いています。そのお陰で生き延びていますが、危ないところでした」と告げた。

その瞬間に、激しい食欲を政宗さんは感じた。

グーッと腹が鳴り、飢餓感を覚えて、今すぐ席を立って何か食べに行きたくなったが。

「まあ、お待ちなさい。少し話を聞いていきなさい」と、おばあさんに引き留められた。

「あなたにこれから起こることを教えてあげます」