赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

政宗さんの母という人は、とある地方の土地持ちの娘で、その生家では、商売繁盛などを願い、代々、東伏見のお稲荷さまを信心していた。そして母とその家族も、神や霊の存在を疑っていなかった。母の実家は今では鉄筋コンクリートのマンションになっているが、屋上に稲荷社を三柱も建てて、現在も大切に祀っていた――東伏見の稲荷と、それを守る従僕的な稲荷たちなのだそうだ。

政宗さんから話を聞くと、彼の母は、すぐにその稲荷に守られている実家に彼を連れていった。

すると政宗さんは、屋上にある稲荷社が怖くてたまらないと感じた。今までは何とも思わなかったのだが、到着してみたら、頭の上にある神さまの存在がとにかく恐ろしい。

腹の中に悪魔がいて、その悪魔がお稲荷さまを恐れているのだとでも考えなければ説明がつかないが、理屈抜きに、震えるほど怖い。

そのようすを見て、政宗さんの母は、叔父(母の弟)に頼んで、叔父の連れ合いの実家と懇意にしている、とある地方の拝み屋を紹介してもらった。

なんでもその人は92歳のおばあさんなのだが、霊視に優れ、たいへん強力な憑き物落としの実力者でもあるという。

除霊できないものがないほどだ、と、聞いた途端、政宗さんは、否、政宗さんの中にいる何かは、さらに震えあがった。

厭がるのを、母と叔父に2人がかりで無理矢理、叔父の車に乗せられて引っ張っていかれた。政宗さんによれば、抵抗しようにも体力が尽きて、すぐに気絶するように眠ってしまったので、この道中のことはほとんど記憶にないそうだ。