赤い樵 「樹齢60年ほどの銀杏の大木を伐採してから起きた恐怖体験」|川奈まり子の奇譚蒐集二八

するとたちまち痩せてきた。さらに、これまでは感じたことがなかった重い疲労を感じるようになり、そこで危機感を覚えてなんとかしてものを食べようとしはじめたが、かろうじて少量の納豆を飯無しで掻き込むことが出来ただけ。

しかし、なんとか呑み込めた納豆も、腹の中で何倍にも膨らんだ感じがして、その後はまた24時間以上、何も口に出来なかった。

政宗さんは納豆が大嫌いだったのだが、いろいろ試してみて口に出来たのが納豆だったのは、父の霊のお陰かもしれないと思った。と、いうのも、彼の父は早死にしたのであるが、生前、納豆が大好物でしょっちゅう納豆を食べていたので。父が守護霊となって、納豆を食べさせることで守ってくれているのだと考えたのだ。

そこで、亡き父の守護に応えるためにも、命を繋ぐためにも、政宗さんは翌日も少しだけ納豆を食べた。

けれども、労働する若者が納豆少しと水だけで体がもつはずもなく、ひと月も経つと、75キロあった政宗さんの体重は、なんと48キロまで落ちてしまった。

写真はイメージです

その頃、同時にAさんにも同じ症状が現れていた。

つまり、件の銀杏を伐ってから食欲が消えて、痩せてきたのだ。政宗さんとの違いは、納豆も食べられなかった点だけだ。