髪女 「浴室の排水口にびっしりと絡まっていた黒くて長い髪の毛の謎」|川奈まり子の奇譚蒐集二九

宮崎支所の総務担当者から、どんなアパートがいいか希望を聞かれたので、「いわくつきじゃなければ何でもいい」と伝えた。失笑されてしまったが、正博さんは真剣だった。オバケが苦手だったのだ。

やがて赴任する日が迫り、宮崎支所のスタッフに案内されて新しい住まいに行ってみると、繁華街や駅から徒歩圏内、支所までも自転車通勤が可能な便利な場所に小綺麗な二階建てのアパートが建っていた。築10年以上になるというが、モダンで堅牢な造りの建物で、浴室とトイレ、洗面所がそれぞれ独立しており、悪くないと思った。

部屋は1階の101号室。アパートのエントランスを入ってすぐ左側に玄関ドアがある1Kの部屋だ。6畳の和室と3畳半のダイニングキッチン、あとはバスとトイレという典型的な単身者向けの間取りである。

支所が掃除用具を貸してくれたので、まずは軽く掃除をした。

玄関を入ると、まずはフローリングのダイニングキッチンがあり、浴室に通じる洗面所兼脱衣所とトイレのドアが左手に、磨りガラスを入れた引き戸を挟んで和室が奥にあった。

和室から先に掃除機をかけはじめ、ダイニングキッチンの床は雑巾で拭いた。退去時に清掃されていたようで、さほど汚れていなかった。それだけに、洗面台に髪の毛が落ちているのを見つけたときにはギョッとした。