髪女 「浴室の排水口にびっしりと絡まっていた黒くて長い髪の毛の謎」|川奈まり子の奇譚蒐集二九

白い陶器の洗面台に、20センチから30センチ弱ぐらいの黒い髪の毛がパラパラと散らばっていたのだ。よく見ると、洗面所の床にも何本か落ちていた。

さらに、浴室にも……。浴室では、床に落ちていただけでなく、排水口にも何本も絡まっていた。

細くて癖のない、真っ直ぐな黒髪だ。おそらく女性のものだろう。

――気持ち悪い! ちゃんと掃除しておいてくれよ!

心の中で前の住人に悪態をつきながら、ガムテープで拾い集めてレジ袋に入れた。そしてその後も掃除を続けようと思ったのだが、髪の毛を捨てたレジ袋がなんだか気になる。気にしなければいいのだが、どうしてもそっちに目が向いてしまう。

――ああっ、もう! 外に捨ててこよう!

近所のコンビニエンスストアに飲み物を買いに行こうと思っていたから、出掛けるついでに髪の毛入りレジ袋を持って出て、コンビニのゴミ箱に捨ててきた。

家庭で出たゴミをコンビニのゴミ箱に捨てるのはいけないことだ、が、引っ越したばかりということもあり、ゴミの集積所の方へ行かず、うっかりコンビニに直行してしまったのである。

しかし、家から離れた場所に髪の毛を捨ててきてみたら、部屋に戻ったとき、気分がスッキリした。空気が清浄になったような心地さえした。