憑きもの体験記1「ガラスに目を走らせると、自分の50センチ後ろに人の気配を放つ陽炎が映っていた」|川奈まり子の奇譚蒐集三八

そう。これは、ITという言葉が存在しなかったか、在ったとしてもまったく一般的でなかった90年代に起きた出来事なのだ。

令和2年現在と平成初期の当時とでは、社会情勢に異なる点が多い。

彩乃さんは高校卒業後に上京し、すぐにソフトウェアハウスに技術者(プログラマ)として採用されたのだが、その頃、そういう女性は珍しかった。

今でも女性のシステムエンジニアは少ないし、高卒でいきなり……という人は男女問わず多くない。彩乃さんの頃は、さらに稀だった。

採用から間を置かず、彼女は大手電子機器メーカーの子会社に派遣された。すると、その職場には、彼女自身を除くと女性が1人しかいなかったのだという。

それが、すでにご登場いただいた「先輩」だ。以降は、この人を仮にタナカさんとして綴ろうと思う。

その春、〇〇百貨店のシステム開発を行う作業チームに参加したメンバーは、タナカさんをはじめとする彩乃さんたちの会社のプログラマ10人と、系列会社のスタッフ20人の、合計30人だった。

彼ら全員が、神社の奥座敷で作業をすることになったわけである。