惚れられの夜 「ラブホテルのドアが開いた瞬間、ギャと叫んだような、いや恐ろしくて声も出なかったような…」|川奈まり子の奇譚蒐集三四

占い師に惚れる人は多い――というのは、今回お話を伺った占い師の佐々木さんの言なのだが、実際のところはどうなのだろう。

佐々木さんは、決して自慢するつもりはなく、それなりにキャリアのある占いのプロならば誰しも経験があるのではないかというのだが。

私には占い師への思慕はとても危険なもののような気がする。なぜなら、私自身が「占いなんか信じない」と日頃はうそぶいておきながら、実は雑誌の星占いや神社の御神籤の結果にひそかに一喜一憂していることを思えば、占いが持つ暗示の力は、催眠術や宗教のそれと類似で、洗脳に近い状況をもたらすとしか思えないから。

占い師に惚れてしまったと思ったときは、いったん立ち止まって考えてみるべきだ。神秘な力に頼るあまり、依存心を恋だと錯覚していないか、と。

一方、惚れられた占い師の方も、一歩を踏み出す前に考慮すべきだ。客との適切な距離感を保つことで、後々のトラブルを防げるのではないか……。

いや、まったく、双方の保身のために、賢明にならなければいけないと、自戒を込めて思ってしまった。

そう、佐々木さんは、とある女性客に惚れられた。彼女の名前を仮にAさんとしておく。

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